「お前は幼馴染だろ」

 いつからだろうか、「お前は幼馴染だろ」という言葉で何でも解決されるようになったのは。いつだろうか、キッドに"幼馴染"としか見られなくなったのは。最早時間の問題じゃないのかもしれないが、私は自分のキッドへの恋心を自覚して以来キッドの態度に腹が立っている。"幼馴染"というレッテルのお陰でキッドの傍で一緒に過ごして来れたのは確かだが、私はそれを良く思った事なんて無かった。
 そりゃあ"幼馴染"だからこそ皆が知らないキッドを私は知っている。キッドが誰よりも思いやりのある人だという事を私は知っている。誰よりも怖い顔してる癖に誰よりも優しくておまけに笑顔が可愛い、そんな男に惚れない女はいない。私もその中の一人なのだから。
 だが、ずっと一緒にいるせいで女子としては見られなくなった。お陰でキッドは私と他の女子に対しての態度を変えるようになった。私が「ありがとう」と言えば「お前が素直になるなんて明日は大雪だな」と言い返してくるが、他の女子が「ありがとう」と言えば「当たり前の事をしたまでだ」なんていつの時代のヒーローだよと突っ込みたくなる位くっさい台詞を吐く。

「何、私も『ありがとう(はぁと)』って言って谷間見せたらあんな態度してくれんの?」
「お前、自分に谷間があると思ってんのか」
「そこは出来ればスルーして欲しかったかな」
「大体ユースタス屋がお前にあんな態度取る訳ねェだろ」

 キッドの親友であり、私の恋愛相談相手のローは私がキッドの事を好きだという事を知っている唯一の人物だ。残念ながら年下から年上まで全ての年齢層の女性からモテるこのお方は私の淡い片思いという物を経験した事が無い。その時点で相談する相手を間違っているとは思うが、ローは何だかんだで私の話を聞いてくれる(相談する度にスリーサイズとパンツの色を聞いてくるのはもうそろそろアウトだと思っている)

「そういえば明日ユースタス屋の家に行くんだがお前も来いよ」
「明日、ってああそうか、もう週末か」
「遊びに行くっつっても俺はあいつの姉ちゃん目当てだけどな」
「キッドの姉ちゃん巨乳だよね、私も拝みに行こうかな」
「お前谷間無ェもんな」
「ねえスルースキルって知ってる?」

 そんなこんなで気付いたら次の朝になってて、そういえばキッドの姉ちゃんの巨乳を拝まなきゃ、そう思ってボッサボサの頭を手櫛で整えてすぐキッドの家に向かった。頭はボサボサな癖にキッドの家に行くんだし折角だから少しお洒落していこうと思う私も中々の乙女だろう。
 キッドの家なんて我が家みたいなものだから、私はインターホン無しに勝手にキッドの家に入った。キッドの部屋の前に着き、一つ深呼吸してから、入ろうとドアノブに手をかければ"なまえ"と自分の名前が聞こえた。驚いて肩をびくりと揺らす私なんかお構いなしに部屋の中で私の名前を呼んだ人物、つまりはロー(そしてキッドも当然いるんだろう)は言葉を続けた。

「なまえの事好きなんだろ」
「なっ、おまっ、何言ってんだ」
「見てて分かんだよ」
「…つっても俺はあいつが誰が好きなのか知ってんだよ、」
「…は?」
「見てて分かんだろ、あいつはお前が好きなんだよ」

 阿呆な会話に耐えられなくなり、私は握っていたドアノブを回して部屋に入った。入ったと同時に目に入ったキッドの顔は存外悲しそうな顔をしていて私まで何だか悲しくなってしまった。

「っお前、何でここに…!」
「私、ローの事好きじゃないから!」
「は、」
「私がずっと小さい頃好きなのはキッドだけだもん…!」

 勇気を振り絞って言った言葉の後に訪れたのは長い沈黙で。気まずい雰囲気の中、ローは空気を読んだのか(はたまたキッドの姉ちゃんの巨乳を拝みに行っただけなのか)部屋を出て行った。部屋に残された私達は相変わらず沈黙のままで私はへたと床に座り込んだ。長く、そして痛々しい沈黙の中私はキッドが口を開けるまで待っていようと決め込み、顔を俯かせ、折角お洒落の為に履いてきたスカートの裾をぎゅっとキツく握り締めた。私が顔を下に向けていればキッドの動く気配がした。それでも上を向かずに俯いていればキッドが横に座ってきて、柄にも無く手を絡めてきた。

「え、ちょ、何してんの!」
「いい加減分かれよ、この馬鹿が!」
「ええ、馬鹿って何、私?何で!?」
「告白されて嬉しかったっつってんだよ、馬鹿女!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ、阿呆!大体そんな嬉しいなんて、え?」
「…好きだっつってんだろ、だからお前は馬鹿なんだよ!」

 俯いていた顔を上げれば予想とは違い、私の方をまっすぐ見たキッドがいて驚いてしまった。「こっち見んな」と言うキッドも真っ赤だが、きっと私も真っ赤だから今は少しこのままでいよう、そう思い私は自分の指に絡められたキッドの手をぎゅっと強く握った。するとキッドも同じ事を思ったのか握り返してきてくれて、これほどこの距離を嬉しく思った事は無かった。



メアリー・イヴの革命の日






20110602
title by √A

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