"大人しくるす番しとくよーに"

 机の上に置いてあったメモには子供みたいな汚い文字でそう書かれてあった。まあいつもエースの家に来る時は大体こういうメモが置かれているのだが、久しぶりに訪ねに来たもんだから久しぶりに見たエースの手書きに何だか安心した。ていうか毎回思うけど『留守番』くらい漢字で書けよ。
 社会人であるエースは帰ってくるのもそう早くは無く、私は何時間もエースの家で暇を潰した。私はまだ学生であるから課題やらやる事はたくさんあるのだが、エースの家にいる時くらいは学校の事を考えるのはやめよう、そう思って手ぶらでやって来た(せめて茶菓子くらい持ってきた方が良かったかもしれない)。そして毎回やっぱり雑誌くらい持ってくれば良かったかなあなんて後悔する。テレビで面白い番組もやってないし、エースの家は基本少年漫画とエロ本しか無いしでする事が無くなった私はエースの匂いがするベッドに寝転んだ。エース特有の匂いだなあと顔を埋めていれば、寝るつもりはさらさら無かったのに、いつの間にか私の両瞼は完全に閉まっていた。
 ガチャガチャと皿と皿とが重なり合う独特な音がして目が覚める。まだ若干寝ぼけていながらも音のした方に顔を向ければ、"しまった"とでも言いたげな表情をしたエースが台所にて立っていた。

「…あー」
「悪ィ、起こしちまって」
「いやそうじゃなくて、私最低じゃんかあ、」

 ゆっくり体を起こすが、ああもう私何やってんだろう。眠たいせいか子供のように喚く私にエースは困った顔をしながら台所から私の所まで小走りして来、取敢えず私の頭を撫でてきた。
 久しぶりにエースの家に来たのに。久しぶりに来たからせめてエースが帰ってきた時に『おかえり』と笑顔で出迎えてやろうと思ってたのに。自分本当駄目じゃんかあ。そう半泣きしながらエースにすがれば、しばらく沈黙が流れた後エースは私の体を自分から離した。

「本当ごめんって、エース、」
「いやそれはもういいから、」

 「それよりも」、そう言ってからエースは一度照れ臭そうに頭を掻いた後、だらしなく緩んだ頬と共に私に微笑んで来た。さっきの『それよりも』の続きは言わないのかと疑問に思いながら、ニヤけまくったエースを見つめ返す。「あー、もう本当!」、嬉しそうにそう言いながらエースは急に私の体をキツく抱きしめて来た。

「お前本当可愛すぎるわ」

 先程よりも更に強く私の体を強くエースはそう言うと泣き癖のついた子供をあやすみたいに、まず私の両瞼に軽くキスを落とし、それからは顔の色んな箇所に同じことをした。『お前みてえな彼女持てて俺は幸せだ、』、顔は見えなかったがいつもより低いトーンでそう言ってきたエースに何だか恥ずかしくなり、照れ隠しの為に私は取敢えず「おかえり、エース」と笑いながら言った。



シャリムの眩暈






20111103
title by 亡霊

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