「新入生だ、可愛いー!」

 "なあ、マルコ?""うるせェ"、そんな会話をする三年生の横を学校に入学したての新入生、つまりは一年生の私はそそくさと通って行った。あの会話をしてたのが知らない先輩達であれば良かったのだが、私はマルコと呼ばれた方の先輩を知っている、だってあれは私のお姉ちゃんの彼氏だった人だ。
 私がまだ中学生だった時、お姉ちゃんが「これが彼氏のマルコ」と嬉しそうにマルコさんを紹介してきたのは未だによく覚えている。マルコさんはお姉ちゃんの一つ下で、普段年上の人と付き合いたい!なんて嘆いていたお姉ちゃんにしては珍しいと思った。私は素直に格好いい人だなあ、と思い第一印象はそれはもう良かった。私はお姉ちゃんの事は大好きだったし、二人にはいつまでも仲良くいて欲しいなと思っていた筈なのに、お姉ちゃんがマルコさんと別れた時はお姉ちゃんを慰めながらも何故か喜ぶ自分がいて、その時初めて自分がマルコさんに恋心を抱いている事に気付いた。

「あのマルコっていう先輩、格好いいよね!」
「あー…そうだね」

 お姉ちゃんからマルコさんが女子から人気ある事はよく聞かされていた。私の学年の子もマルコさんの事好きになったりするんだろうな、と思っていたら案の定高校に入って初めて作った友達もマルコさんに惹かれていた。
 入学した今でもマルコさんの事が好きなのは確かだが、マルコさんと話したいだとか付き合いたいだとかそう思わないのは、これまたお姉ちゃんが教えてくれたマルコさんヤリチン説のお陰だろう(お姉ちゃんがいて本当に良かったと思う)。かと言って周りの子がマルコさんの事を知ったような態度を取るのは何だか気に食わなかった。でもまあ、どうせマルコさんが卒業するまであと一年だし、関わることも無いだろうしとそう思いながら毎日を過ごしていた。

「お前、あいつの妹だろい」

 部活勧誘を全て華麗に断ってきた私は輝かしい帰宅部の一員になり、放課後の今も部活を頑張る同じ学年の子たちに心の中で"お疲れ様"と言った。早く家に帰って昼寝でもしよう、そう思って下駄箱の前で外靴に履き替えていれば懐かしい声が上から降ってきた。

「…お久しぶりです」
「お前ここに入学したんだな」
「、お姉ちゃんもここに通ってましたし」
「新入生多すぎて、お前までここに通ってるなんて知らなかったよい」

 だからどうしたんですか、そう言いたかったが流石に先輩なので私はただただ黙っていた。マルコさんも特に何も言ってくるとは思えなかったので、「私はこれで…」と遠慮がちに頭を下げながら帰ろうとすれば、ガシッと手首を掴まれた。

「…あ、あの」
「さっきの嘘」
「え、いや、あの」
「入学式の時見かけてお前だってすぐ分かった」
「…?」

 「ずっと会いたかったって言ったら困るか」、ニコリともせず無表情でそんな事を言ってくるマルコさんに私はどう反応したら良いのか分からず黙り込んでしまう。マルコさんはそんな私を面白く思ったのか、喉元で笑ってから私の頭に手を置いてきた。私が返事しない事をどうやら察したらしいマルコさんは柔らかく笑い、「会えて良かったよい」、それだけ言って帰って行った。ああ、もう関わらないと思ってたのに、私のプランは滅茶苦茶だ。



痛みに慣れたこの心臓で






20111016
title by 亡霊

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