優しさはたまに罪だ。
 サッちゃんは元々社交的な人で、クラスの男子には勿論、女子にも気さくに話しかけちゃう人だから、女子からの人気なんてそれはもう計り知れないものになっている。サッちゃんの場合、誰にでも優しくもあって、サッちゃんのそんな所が好きになった私だが、今となれば寂しくなる原因にしかならない。
 私とサッちゃんは付き合ってるとは言っても学校で皆の前でベタベタしたりと、そういう恋人がするような行為をする訳ではない。私は自分の友達と居て、サッちゃんもサッちゃん自身の友達と居る。残念ながらその"サッちゃんの友達"の中に女の子なんか大勢いる訳で、楽しそうにその子達と談笑する様を遠くから羨ましそうに眺める私は他の子からしてみれば、ただのサッちゃんに片思いをしていて、おまけにそのサッちゃんの"友達"に嫉妬している女子だ。

 サッちゃんが悪気があって他の子達ばかりといる訳じゃないのは頭の中では分かっているつもりだ。元々サッちゃんは友達が多いし、私と付き合っているからと言ってその子達と話すなという方が無理あるだろう。ただ、ただ付き合い始めの頃に比べて一緒にいる時間が減ったのは明らかだった。付き合い始めた時に下校は一緒にするという約束をしたのだが、最近では下校していても特に恋人らしい会話をする訳でも無く、手を繋ぐ訳でも無く、ただただ一緒に歩いているだけで。別にいちゃつきたい訳じゃないが、やっぱり寂しい。
 そう思ってこの前だって勇気を出してサッちゃんにもっと一緒にいたいと言ってみたが、運悪くも私が先生に呼ばれて結局返事を聞く事が出来なかった。

 今日も普段と変わらず遠くで友達と笑うサッちゃんを眺めていた。楽しそうだな、とまるで他人事のように(実際に他人ではあるが)考えていると、サッちゃんがある女の子の髪の毛を触るのが見えた。あまり嫉妬する方では無いが、何だか無償に二人がお似合いに見えて腹立ったと同時に悲しくなった。"大丈夫?"と私を心配する友達の声に気付いて顔を上げて、私はようやく自分が泣いてる事に気が付いた。
 教室で泣くだなんて何という事だ。周りの皆に心配かけないように大丈夫、と笑顔を振りまきながら必死に涙を拭っていれば、サッちゃんが珍しく眉毛をハの字にして近づいてきた。サッちゃん、と彼の名前を呼ぶ前にサッちゃんは私の手首を痛い位強く掴んで、歩き出した。ガタンと言う扉が開く音に反応して顔を上げれば、どうやら私は屋上に連れて来られたらしかった。

「サッちゃ、」
「お前何で泣いてんだよ、」
「、だから大丈夫だって」
「…大丈夫じゃねえだろ」

 相変わらずサッちゃんに掴まれてる手首は痛くて。何で泣くのかと聞いてくるサッちゃんの方が今にも泣きそうな顔をしていて、更に泣きたくなった。するとサッちゃんはいきなり私の手首を自分の方に引っ張り、きつく抱き締めてきた。サッちゃんの両腕が私の背中に回ってきたと同時に今まで抑えてた涙がまた一気に出て来て、出したくも無い汚い泣き声まで出てしまった。

「、何でっ、何でこういう時にだけ触、るの」
「は、」
「私の髪の毛、っには触らないのに、あの子の髪の毛は触って、っ最近は一緒に帰ってくれないし、何か私ばっか好きみたいで私ばっかサッちゃんと一緒に居たい、とかもっとサッちゃんの事知りたい、とか触りたい、とか、」
「、なまえ、ちょっと落ち着け」
「落ち着ける訳、ないじゃんっ、っうあぁあ」

 喋り止らないし、おまけに泣き止まない私にサッちゃんは驚いたのか、先程よりも眉毛を下げながら私の顔を覗き込んできた。サッちゃんの馬鹿ァと決して可愛くない、ぐちゃぐちゃになってるであろう私の顔にサッちゃんは一つ額にキスをすると、また強く抱き締めてきた。

「俺だってな、」
「…っうん、」
「その、触りてえとは思うよ、ほらサッちゃんだって男な訳だしな?」
「、ならたまには触ってくれたって、っいいじゃん、」
「馬鹿お前、お前は思春期の男子って奴を知らねェから、んな事言えんだよ」
「…サッちゃんの馬鹿、」
「、今回は俺が悪かった、ごめんな」
「…、でもねサッちゃん、」
「んー?」
「やっぱり、やっぱり寂しかった、」

 サッちゃんの逞しい胸板に頭を預けてそう言えば、背中に回ってた両腕の力が一旦弱まり、かと思えば先程とは比べ物にならない位強い力でまた抱き締められた。頑張ってもぞもぞと顔を動かして上を見上げれば、案の定真っ赤になったサッちゃんが居て、思わず笑ってしまった。



あとは溢れて沈むだけ






20110523
title by CELESTE

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