「何か最近無償に口が寂しくなるんだよねえ」

 あうあうと口を動かしながらそう目の前で分厚い医学の本を読むローにそう言うと、ローは私は一瞥をくれただけで何も言わずすぐに目線を本に戻した。まあ、私の日常的呟きになんかこのエリート学生は興味持ちませんよね、そうですよね、そりゃそうですよね、って私達一応恋人同士なんだけどね何これ私泣きそう!
 大学に入ってから色々やらかして煙草に手を出していた私は今現在禁煙している。そりゃ最初の方は苛立って仕方がなかったが最近はだいぶマシになってきていた。
 大学の先輩であるローに会った時、私の前で煙草を吸う彼に「早死にするぞ」と睨まれながら言われた事が煙草をやめようと思ったきっかけである。最初は悔しかったからこのくそ先輩が死ぬまで私はこいつの隣でずっと煙草吸っててやろうと思ったが、チキンで有名な私はすぐにそれをやめ、逆に「そうだ、簡単にやめられる事を証明すればいいんだ」と違う案に走り(今更ながら自分馬鹿だと思う)、おまけにいつの間にかローの言いなりになっており成り行きで付き合うことになり…と色々あってこの間とうとう禁煙する、とようやく行動に移すことが出来た。

「ロー先生助けてくださーい」
「頭の悪ィ患者は診ねえ」
「そういう先生の方が悪いと思いまーす」
「顔も頭も悪ィどこぞの患者よりマシだ」
「そろそろ泣いてもいいよね?」

 お得意の人を見下したような(実際見下してる)顔をしながら私を鼻で笑ってきた。最近バラエティ番組にて活躍しているハンコック様のような見下しポーズを私もお返しにやってみたが、ローの後ろに悪魔を見た気がしたからすぐに謝っておいた。

「でも本当に口が寂しくなるんだよー」
「だからガムでも噛んどけって言っただろ」
「噛んでたら"臭ェ死ね"って言ってきたのあんたですけど」
「バラすぞ」
「すいませんした」

 謝ってから私何も悪くないじゃん!と反撃しようと思ったが、そろそろ本気で命に危険を感じたから黙っておいた。ガムも噛めないし勿論のこと煙草は吸えないし暇だったので口をぱくぱく開けたり閉めたりと金魚の真似をしていたら、ローが座っていたソファーから急に立ち上がったのでびっくりして口を開けたまま、私の前に立つローを見上げた。
 いつもだが、隈が酷いわ目つきは悪いわ眉間に皺はよってるわで本当怖くて、「私今日逝きます」と心の中で泣きながらローを見ていたら、急にローが屈んでき、顔をぐっと近づけてきたので驚いたが、いつの間にか私のだらしなく開いた口が塞がれたので思考回路が一瞬止まった。

「汚ェ面で口動かすのやめろ」
「…うおおお」
「…次は何だ」
「何か私、ローが格好よすぎて心臓の病気になってしまった模様…!」

 「そうか、それなら俺が責任持って治療してやらなきゃだな?」「あっ////」な展開を期待して、目を輝かせながらローを見ていれば、ローは調子を乗った私をうざったく思ったのか思い切り私の顔面を掴んできた。「シャンブルズ」、そうローが呟いたのをしかと聞いた私はその場で静かに目を閉じた。



白に草花






20110907
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