生まれて初めて誰かを好きになって。高鳴る鼓動に疑問を抱きながら毎日を過ごして。でもある時どうしようもなくなって、友達にこの事を話したら恋だって事に気がついて。相談相手であるトラファルガー君にも「任せろ」なんて珍しくウィンクされて。
 そしたら知らない間にキッド君と私が付き合うことになっただなんて私は信じません。

「いいじゃねえか、釣り合ってるぞお前等」
「お前が偉そうに言うんじゃねェよ、胸糞悪ィ」
「今まで彼女出来ねえって嘆いてたのは誰だよ、この糞が」
「反発」「シャンブルズ」

 目の前で何が起こっているのか全く理解出来ない私はとにかく喧嘩を始める二人を硬直しながら見てるしか無かった。何で二人が喧嘩してるのかも分からないが、それよりも何でトラファルガー君がキッド君を私の前に連れてきて「お前等これから付き合え」と言ってきたのかが一番理解し難い。そりゃ私はトラファルガー君にキッド君の事が好きだと打ち明けたが、まさかこんな無理矢理キッド君を連れてこられ、更には付き合えなんて命令されるだなんて。聞いてないし勿論頼んでもない。
 中々終わらない喧嘩におろおろしていれば、トラファルガー君がふっと一瞬笑って私の方を指差してきた。そうしたと同時にキッド君はチッと舌打ちをした。喧嘩を中断するとトラファルガー君は「どういたしまして」と私達が礼も何も言っていないのにそう一言言って教室から出て行った。トラファルガー君は結局何がしたかったんだろう、とそんな事を考えるよりも先にすぐに訪れた気まずい沈黙に気づいた。

「あのよ、」
「あ、うん、」
「お前俺が好きなんだろ?」
「ええええ、そんな直球で聞いちゃいますか…」
「トラファルガーの野郎が言ってたしな」

 トラファルガー君に感謝どころか寧ろあの無駄に端正な顔を殴りたい衝動に駆られたが、取敢えず落ち着く事にした。目の前にいるキッド君は喧嘩からか疲れてるようで少しダルそうにしていた。しかしこのまま事を放置しておく訳にもいかないと思い、キッド君に私の一方的な片想いである事を話した。

「その、付き合うって言ってもキッド君が嫌でしょう」
「何でだよ」
「いや、そんな好きでも無い女と付き合わないでしょ普通」
「まあそうだな」
「じゃあやっぱり付き合うのは駄目なんじゃ、」
「いいだろ別に。俺はお前が好きでお前も俺が好きなんだから」

 そう言って「ほら行くぞ」と教室から出て行く落ち着いているキッド君とは正反対に私の頭の中は混乱していた。それでもついていかなきゃ、と思って自分も教室から出ようと走り出せば、頭がよく回ってなかったせいか派手にコケてしまった。最悪だ、と急いで立ち上がれば案の定廊下の向こう側でキッド君が私のコケた所をばっちり目撃してたらしく、口を押さえながら近づいてきた。
 恥ずかしさでいっぱいになり、無意識に顔を俯かせればキッド君が声を出して笑うのが聞こえた。驚いて顔を上げれば、キッド君は楽しそうに笑っていて、私もつい笑ってしまった。キッド君の笑顔が見れただけでも充分だったのにキッド君は余程私がコケたのが面白かったのか、「お前面白ェ奴だな」と言って私の頭を撫でてきた。頭を撫でられるなんて友達によくされてる事なのにキッド君にされるだけでこんなにも違うんだと実感し、改めて恥ずかしくなった。



患ってゆくしあわせ






20110907
title by alkalism

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -