「なまえ、慰めて〜」

 もう聞き飽きたという程に聞いてきたこの台詞。好きなアーティストの曲を聴きながら一人の時間に浸っていたというのに、この幼馴染とやらは私のアパートの部屋の前で大声で私に呼びかけてきた。小さなアパートだから他の住民にも聞かれるのに奴はお構いなしと言った感じだ。うざったいと思いながらドアを開ければ案の定、幼馴染であるサッチがいて、サッチは私がドアを開けたと同時に、遠慮の"え"の字も無しにずかずかと私の部屋に入って来た。
 サッチは私の幼馴染で、最近ではある大手の企業会社に就職して、しかもかなり活躍しているという話をよく周りから聞く。そんなエリートと称されるサッチだが、昔から女癖だけは非常に悪い。大人になった今でもその癖は残っているようで、学生時代と同じように女をとっかえひっかえしている。しかし"女たらし"だと噂されているのにも関わらず周りから人気あるのはきっと彼が根は良い人だからだろう。それだから悔しい事に私も昔から想いを寄せている。が、いつまでも伝えられず、いつの間にか私はサッチの新しい彼女を作るサポート役兼別れた時の慰め役に任命されていた。
 ソファに座るサッチを見れば、片頬だけが赤くなっていた。さっきドアを開けた時はすぐ部屋に入って来られた為、気付かなかったがどうやら今回はかなりの修羅場だったようだ。

「うっわ、何したの」
「何もしてねェよ、俺を何だと思ってんのなまえは」
「女の子の為なら堂々と道端でも自分の息子を晒せる気持ち悪い奴」
「まあ、否定はしないけどな!」
「いっそ清々しいなこの野郎」

 ハァ、と呆れながらも腫れをひかせる為氷を持ってきてあげれば、サンキュと返された。話を聞けば、どうやら元彼女は誰かからサッチの女たらしぶりを教えて貰ったらしく、怒ってサッチの頬を殴ったらしい。痛そうと思いながらサッチの頬に触れれば、「あれ、心配してくれてんの?」とニヤケながら言われ、ムカついたからペシッと軽く叩いてやった。

「ったく、もうそろそろ女の子とっかえひっかえするのやめなよ」
「えー、でもサッちゃん女の子好きだし」
「自分の事サッちゃんって言うな、気持ち悪い!」
「ツレねえなあ、なまえは」

 何か無償にイライラして軽くサッチの脇腹を足蹴にしてやれば、またヘラヘラと笑われた。全く呆れる、そう思いながらテーブルを挟んでサッチの前に座る。サッチはどうやら考え事をしているらしく、一人で百面相をしていた。どうせ次はどの女にしよう、とか考えてるんだろうと推測していれば急にサッチが口を開いた。普段のヘラヘラしたサッチとは違い、何だか真面目な顔をしていたので不覚にもドキッとしてしまった、畜生!

「俺もね、」
「うん」
「だいぶ前から、俺のものにしたいなあって思ってる女の子がいる訳よ」
「ほうほう」
「結構アピールしてるつもりなんだが気付いてないらしくてな」
「何かよく分かんないけど良いじゃん、その子で」
「なのにそいつ、全然気付いてくれねんだわ、幼馴染の癖して」
「そりゃサッチ相手じゃな、って…ハッ!?」

 私がサッチの唯一の幼馴染だって事は、今までずっと一緒にいた私が一番よく分かっている。サッチがたった今言ったことが信じられず、ハテナマークを頭に浮ばせながらサッチをじっと見れば、サッチはまたヘラッと笑い出した。冗談だったのか、と怒鳴り声を上げようと思ったが、それよりも先にサッチが私の隣に来て、ちゅっと私の額にキスを落としてきた。"もう何なの、からかうのもいい加減にしろ"、そう言いたいのに驚きと嬉しさが混じって中々口に出せない。そんな私に気付いたサッチはヘラッと嬉しそうに笑って、今度は唇にキスをしてきた。

「そろそろ俺のもんになれよ、なまえ」



躍然たる恋






20110808
title by alkalism

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