「どうしよっかなー」
「ナニをどうするんだ?さぁ言ってみろ。なぁに恥ずかしがる必要はない、おれの耳元で囁けばな」
「先生ー、トラファルガー君が盛っています」
「あららららトラファルガー君、昼間っから元気なのはいいことだけどちょっとは抑えようね。おれも頑張るから」
「てめぇもかよ!」

 授業中、何気なくぽつりと呟いた一言を隣の席のトラファルガー君がバッチリ聞いてた。そしてガッチリ救いようがないほど卑猥に聞いてきた。なので先生に助けを求めたのだが、なんてことはないこの数学教師も同類だった。

 わたしが助けを求める人を間違えたと後悔していたら先生は何を思ったのか、トラファルガー君に廊下に立つよう命じた。たまには教師らしいことするじゃないとか思ってたら「いいねーこの響き、一回言ってみたかったんだよね」とか言ったのでわたしは先ほどの感心を取り消した。

 理不尽な職権乱用な発言に納得できないのかトラファルガー君は「……チッ」と、いや正確には「ヂッ!!!」とビックリマークが三つくらいは付くんじゃないかというくらいのクラス中に響く舌打ちを咬まし、わたしに「夜は激しいと思え」とか抜かし廊下に出ていった。

 まぁ、ヂッ!!!となる気持ちは分かる。わたしに苛立つ気持ちも分かる。でも夜が激しくなるという気持ちは到底理解はできない。だってわたしトラファルガ―君とは全くと言っていいほど関係ないもの。

 まぁわたしとしては鬱陶しさ満載の隣人がいなくて清々したのでこれはよしとしよう。

授業再開

 わたしはクザン先生の数学の解説を片手間で聞きながら、冒頭の言葉を心の内で呟き耳たぶをぷにぷにと触っていた。

「どうしかしたのか?」

 するとわたしが不必要に耳を触っていたから気になったのだろう、後ろの席のキッド君がコソッと訪ねてきた。

「あぁキッド君」

 キッド君を見ると安心する。そりゃあ眉毛はなくて髪は赤くて腰パンしてて不良と名高いけど、ここでは数少ない常識人で見た目からはあまり分からないが実はとってもエコに気を配れる優しい人だからだ。そりゃあ眉毛はなくて髪は赤くて見た目ド不良だけど。ほら、キッド君の机の後ろに燃えるゴミと、燃えないゴミと、空き缶類等のごみ箱がきちんと並べられている。

「耳、痛いのか?」

 ほうら、優しい。心配そうにわたしの顔色を伺うキッド君に「ううん、違うよ」と笑顔で返す。

「穴、空けたいなあって。ほらキッド君みたいにかっこいいピアスしたくてさ」
「あぁこれか?かっこいいっつてもあれだ、空き缶の蓋を軽く捻っただけなんだけどな」

 そっかあ。聞きたくなかったなあ。そんなエコ話。

「おれが挿してやるよ」
「いつの間に戻ってきたのよ変態」

 わたしとキッド君との会話に割り込んできたのはつい先ほど廊下に立たされたはずのトラファルガ―君だった。わたしはこの時初めて空気を読めないという言葉の意味を理解できた。

「開けるのヤる前がいい?ヤった後がいい?」
「ねぇ聞いてた?」
「いや聞いてる?」

 わたしはこの時初めて苛立つという言葉の意味を肌身に感じたので衝動的に「先生ー、トラファルガー君が勝手に廊下から帰ってきてます」とトラファルガ―君の身を売った。

「あらららら、そんなに先生の授業聞きたかったんだ。女の子だったら嬉しいけどおれ、ちょっとそっちの毛は…」
「先生おれ廊下行きます」

 先生の危ない言葉を聞いたトラファルガー君はまたしても廊下に向かった。先ほどと違うのは自分の意思で自分の足で廊下に向かったことだ。

授業再開

「でも穴開ける時痛いんでしょ?ピアッサーでバッチンなんでしょ?」
「いや、画鋲でブシュ!だな」
「痛い痛い痛いよキッド君。何故だかわたしの耳が何もしてないのに痛いよ?精神的痛さだよ?」

 さすがエコに気をかけるキッド君。でもこれはなんか違う気がするよ。わたしが画鋲でブシュの痛さを思い浮かべ顔を歪めていると、キッド君は「ばーか、嘘だよ」と笑った。あぁそっか嘘なんだ。よかったそうだよね画鋲なんかでやらないよね、とホッと胸を撫で下ろしたのだが「画鋲でザクッだ」と言ってきた為わたしは口角がひくついた。キッド君って何かと天然だよね。あぁ耳が痛くなってきた。

「やっぱりやめようかな…」

 わたしが耳たぶを触りポツリとそう呟くと、キッド君は何を思ったのかおもむろにわたしの耳たぶを掴んできた。少し冷たいキッド君の手にビクッと体が縮んだ。ふにふに、そんな感じで耳たぶの感触を味わいながら至極真剣にわたしの顔──いや耳を見るキッド君。その真剣な表情にドキッと胸が高鳴るが、このいささか訳の分からない状況のせいでそのトキメキも蚊帳の外。だが恥ずかしいという感情はまた別なのか、キッド君に触れられてる箇所は徐々に熱を持つ。

「あの…、キッド、君…?」
「あぁ悪ぃ、おまえの耳たぶやわらけぇな」

 もっと触っていてぇ、なんて言うキッド君に胸がこれほどかというほどざわついた。これがあの不良なキッド君なのだろうか?答えはYES。多分喧嘩ばっかしてるキッド君しか見てないのなら、こいつは誰だ!なんて言うのかもしれない。喧嘩の最中のキッド君は恐ろしいほどに歪んだ笑みで相手を挑発する。その顔を見てると普段ヘビメタしか聞いてなさそうと思うのは悪いことじゃない。わたしもそう思ってた。しかも普段は実に仏頂面で、あぁ?ていうガンつけてるって感じだから余計悪評がたつ。わたしも最初睨まれてちびるかと思った。

 でも一緒のクラスになり、こうやって席が近くなり、段々と話していくとキッド君はヘビメタばっかり聞いてるド不良ではないということがわかった。売られた喧嘩は買うだけで自分からは売らない、普段仏頂面なだけで別に頭の中は抹殺、殺戮、とか特に何も考えていないということが分かった。

 現に見てよこのキッド君、わたしの耳たぶ触って微笑んでるんだよ?これは違う意味でちびるよね、なんてわたしは笑った。最近ではキッド君の意外な一面を見るたびにドキドキする。

 するとふいにキッド君はわたしの唇をなぞる様に触れてきた。またいきなりのことにビクッとする。キッド君の眉毛のない整った顔が近づく。え?───え、?ドキドキと高鳴る胸、キッド君のその至極透き通るな瞳から目を剃らせられない。なんて妖艶な表情を魅せるんだこの男は。

 今授業中だよ、とかこんなイタズラやめてよ、とか内心で抗議の声を出している間にもキッド君は鼻と鼻がくっつきそうな距離まで近づいてきていた。わたしは反射的に目を瞑った。

 ピタリ、そうピタリとキッド君の動きが止まったのが分かった。薄く目を開けると近いよキッド君。もどかしい距離にうずく心と安心する気持ちがわたしを襲った。

「喰い付きてぇな」

 キッド君はさらり、とそう言いのけ先ほどの距離まで戻ってった。な、な、、な…!なんて男だ!これじゃあお預けを食らったまぬけな犬みたいじゃないか!とわたしは口をパクパクと魚みたいに動かし顔を真っ赤にした。

「どうかしたのか?」

 キョトンとそう言うキッド君の声色とは全くと言っていいほど反比例しニヤリと口角を上げるキッド君に脱帽した。この男…天然じゃないな…?



意外な一面

以外な一面



(そうだ、おれが開けてやるよピアッサ―で)
(え、い、いい!)
(なら画鋲で)
(いいいいい!)
(冗談だ、でもなまえの初めてはおれが貰うからな)
(?…どういう意味?)
(さあな)





20110129
from ちょび






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