「ねえ、赤也」
『何すか』
「…このままだと五限に間に合わないんだけど」
『へー』

 へー、じゃないでしょ。という反論は心の中に呑み込んだ。不機嫌状態の赤也を怒らせてしまうと、私でさえも手が付けられないことは実証済みだから。じゃあ、どうして赤也は怒ってる?それが分かったら苦労はしない。今日を振り返ってみても、朝はいつも通りだったし、そこから今のお昼までは会わなかった。うぅ、これは本格的に分からなくなってきた。

 ぎゅっ、と赤也が私をきつく後ろから抱きしめて、かれこれ一時間が経過した。屋上は昼でもまだまだ寒い。因みに五限開始のチャイムはもう鳴ってしまった。ああ、仮にも受験生がサボりなんて…。それでも赤也はだんまりを決め込んでる。

「赤也、ごめん」
『何で俺が怒ってるのか分かってないでしょ、先輩』
「…ごめん」
『バカ、先輩っ』
「赤也、私バカだから、ちゃんと言ってくれないとわかんないよ」

 鼻声になってる赤也は、本当にバカならいいのに、と大人しく呟いた。不謹慎だけど、赤也のこういう所がすごく可愛い。

「ね、赤也」
『…悔しいんすよ』

 観念したようにぼそぼそと話しだす赤也。前に回り込み、私の肩に顎を乗せて、顔が見えないようにしている。きっと涙目だから、見られたくないんだろう。

『体育の時間、グラウンドから先輩が見えて。でも先輩は丸井先輩と仁王先輩と楽しそうにしてて』
「…うん」
『俺があとちょっと早く生まれてたら、あの中に俺も居たかもしれないのに、って』

 抱きしめる力が強くなる。確かに中学生の私たちにとっての「一歳」の差はあまりに大きい。それは年上の私にだって同じで、痛いくらい気持ちは分かる。

「分かる、分かってるよ。でもさ、赤也」

 ビー玉のような瞳が真っ直ぐに私を捉える。今まで出会った誰よりも曇りのないその瞳が好き。

「私は、今この目の前の赤也が好きになったんだよ」
『は、い』
「もしも私たちが同い年だったら、人生は違ってくるでしょ。だからもしかしたら、恋人同士じゃなかったかもしれない」
『…ん』
「そんな、赤也が彼氏じゃない人生なんて私は嫌なの!赤也は違うの?」
『そんな、違わないっすよ!俺だって先輩じゃないと嫌っす!』

 勢いよく立ち上がり、私は見下ろされる形になった。見上げると、鮮やかな蒼天が赤也の背景になっていて、目に染みる。寒さなんて何処かに置き忘れた。

『すっげー好き』
「私も」

 恥ずかしいカップル?何とでも言って下さいよ。恋愛なんて恥ずかしさの塊だ。まだ若いんだから、今いっぱい愛し合わないで、いつ恥ずかしいくらいの恋愛すればいいのよ!



の言葉は叫んでよ!






20110206
from ニアちゃん






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