いつも通りの時間に、いつも通りの道を通って、いつも通り登校した。それなのに、

「…えーっと、何か?」

 校門の前を通過しようとしたら、突然手を強く引っ張られた。びっくりして確認すると、その手の主は風紀委員長の真田くんだった。

『す、スカートの丈が、普段より短いのではないか』
「…え」

 な、何で!何で分かったの!?
 実は今朝気まぐれで、ほんの1センチだけスカートを曲げてみた。ぱっと見で分かるほど変化はない筈だ。さっき会った女友達ですら気づかなかったのに…。風紀委員長、恐るべし。ここは素直に謝るのが得策かもしれない。

「ご、ごめんなさい…」
『うむ。放課後に俺の所へ来い』
「はい…」

 それだけ言うと、真田くんは戻っていった。多分初めてまともに話したけれど、威圧感がある。何というか、他の人と違うものを感じた。
 放課後までの数時間が、これでもかと言うほど酷く長く感じられた。授業も頭の中をするりと抜けて行くのが分かった。

***

 放課後、恐る恐る真田くんの所に行った。テニス部では鉄拳とか喰らわせると聞いたけど、流石にそこまではされない、はず。前に髪を染めた女子が居たけど、その子も凄い説教をされたとしか聞いてない。大丈夫、大丈夫…。

「あの、真田くん」
『ここでは何だ。場所を移動するか』
「あ、はい…」

 うわぁあ…!場所移動するとか、鉄拳フラグ立ちまくりじゃないか!
 言われて、連れて来られたのは生徒指導室。一歩ずつゆったりとした足取りでこちらに向かってくる真田くんの雰囲気は、正に鬼のように感じた。

「ご、ごめんなさいごめんなさい!」
『……は?』

 駄目だ、恐い。我慢出来ずに頭を下げる。目尻にじわりと熱いものが込み上げてくるのが感じられた。真田くんの顔は見れない。

「お、お願いだから、殴らないで…」

 客観的に見ると、実に馬鹿らしい台詞だ。でも私の頭では、それしか方法が思いつかなかった。それを聞いた真田くんは、

『…ふっ、はは!』

 …笑って、る?あの堅物真田くんが?いくら私の台詞が馬鹿みたいだからって、指導してる最中に笑うような人だっけ?

『…あー、すまん。その、そんな理由で人を殴ったりはせん。安心してくれ』
「え、あ、はい」

 あんな柔らかい表情の真田くんを初めて見た。雰囲気も、さっきとは比べ物にならないくらい柔らかい。なんだ、普通に優しい人じゃないか。

『本当は、指導するつもりはなかったのだが』
「…え?」
『少し、呼び止めたかっただけなのだ』

 まさかのカミングアウト。どういう意味なんだろう。

『その…笑わずに聞いてくれるか』

 こくこくと力強く首を縦に振った。どうやら真田くんの頬が少し赤いのは気のせいじゃなさそうで、こっちまで顔に熱が集中してきた。

『蓮二から聞いていたのだが、今日が誕生日なのだろう』
「へ…あ、はい」
『本当は朝に言ってしまおうと思っていたのだが…情けないが、出来なかった』

 真田くんの目線は斜め下を向いている。私も、上手く真田くんを見れない。二人のこの空間だけ、他所からから隔離されたみたいな。そんな感覚。

『だから、こうして呼んだんだ。…緊張すると、どうにもかっこつかないな』
「…ううん」

 かっこいいよ、そう思ったけれど、口には出さなかった。それはもっと後でいい。

『誕生日、おめでとう。お前のことは、その…嫌いじゃない』

 何それ。そう言って少し笑うと不服そうに、笑わないと言ったではないか、と怒られてしまった。鬼のようだった数分前と違って、今は少し可愛く感じた。



チークの恋心






20110316
from ニアちゃん






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