「なまえ、おれのタオル知らね?」
「…先輩さっきタオル持ったまま走りまわってたじゃないですか」
「いや、それがよ…どっか行っちまったみたいで…」

 気まずそうに頭をかきながら目を泳がせてそう言ってきたのはサッチ先輩。こんな態度をするのも当たり前だろう。彼の私物が無くなるなんて日常茶飯事だからだ。私は溜息をついて、自分の予備のタオルを渡した。

「これ貸しますからとりあえず練習に戻って下さい。探しときますから」
「ワリ!頼むわ!」
「おいサッチー!はじめっぞー!」

 顔の前で両手を合わせて謝罪したサッチ先輩はそのまま練習に戻って行った。さて、バカな先輩の為にタオル探して来てあげますか。先輩マネージャーに事情を話せば、苦笑いで行ってきな。って言ってくれた。それから、今度サッチ締めとくから。と笑顔のオプション付きで。

―――

 …確か先輩、さっきこの辺にいたよなぁ…うろ覚えな記憶をたどってタオルを探す。ってゆうか、タオルってどんな奴だよ。色とか聞いてなかったから分からんし!と思いながらも、ザクザクと草むらを探す。ないなぁ…

 何だかめんどくさくなってきた。曲げてた腰を伸ばしてちょっと周りを見渡す。あ、あれじゃね?ふと目に入った青っぽいタオル。取って見ればヘアゴムがくくりつけてあった。これ、先輩のだよなぁ…たまに髪の毛を固めずに来ることがある。その時に使ってるヘアゴム。うん。何かそれっぽいからこれでいいや。正直探すのも面倒になってきたので青いタオルを畳んで、戻ろうとした。

「危ねェ!!」

 歩き出そうとした時、横からすごいでかい声が聞こえて振り返ろうとした。瞬間、ゴッという鈍い音と額にすごい衝撃が走ってそのまま後ろに倒れた。いっ…てェェエエエエエ!と、叫ぶ元気もなく、フラっとそのまま視界がシャットダウンされた。

―――

 ヒュウ、と冷たい空気が当たって目が覚めた。ゆっくり瞼を開けると薄暗い住宅街を歩いてることに気づく。いや、実際歩いてるのは私じゃなく……サッチ先輩だ。私はサッチ先輩の背中で寝ていたのだろうか。何か申し訳ない。

「先輩、」

 背中を叩いてそう呼べば、起きたか?と返事。

「はい、何かすみません…降ります」
「…大丈夫か?」
「歩くくらいなら支障はないかと」
「ははっ相変わらず堅苦しいな…そんだけ口がまわりゃ、大丈夫か」

 何か馬鹿にされた気がしたので背中を殴れば悪い悪い、と笑いながら言ってきた。先輩の背中から降りて隣を歩く。そう言えば荷物とか全部先輩が持ってたんだよな……何て体力だ。私なんか学校に置いて来てもよかったのに。ポツリと呟けば、先輩は苦笑いしながら私の頭を撫でた。

「半分くらいは俺の所為だからな」
「え?何がですか」
「タオル」
「…ああ、そうでしたね」
「あれ、納得されるとちょっと悲しい」
「それで、あのタオル…」
「おう、おれのだったよ。すげェなお前」

 ニコニコと嬉しそうに笑ったかと思えばまた表情を曇らせたサッチ先輩。よくそんなに表情変わるなぁ、と感心しながらどうしたんですか、と聞けば、ああ、いや…と煮え切らない返事。言いたくないなら別にいいんだけど。

「…お前に怪我させちまって、その…どうけじめをつけたらいいかを考えてたら…」
「え、そんな大事な事じゃないですよ!軽い脳震盪です…し、…先輩?」

 立ち止まって、悲しそうな顔で私の額に触れた先輩。…ああ、やっぱり。さっきから違和感はあったが、やっぱりちょっと切れてたか。ガーゼの感覚が額に当たって少し血が出たのを感じた。

「ごめん、」

 目を伏せながらそう言った先輩に私は泣きそうになった。何でそんなに、先輩が負い目を感じなきゃいけないんだろう…。ぎゅっと、先輩の手を掴んで真っ直ぐ先輩を見つめる。外灯がチカチカと今にも消えそうになっていた。

「先輩の所為じゃないです。悲しい顔しないで下さい」

 ハタリ、と先輩の頬に涙が伝ったかと思うと、次の瞬間、私は先輩に包まれた。

「…ごめん、」

 二度目のそのセリフを耳に、私は先輩の背中に手をまわした。



君を






20110320
from みっちゃん






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