タイミングが悪いにも程がある。滅多に体調なんて崩さないくせに、年に一度の誕生日に限って風邪をひくなんて、ついていない。おかげでわたしの今日のテンションは、地を這うように低い。今日のデートに着ていく予定だったワンピースや、カレンダーのハートマークが視界に入るたびに、苛立って、むなしくて、一頻り泣いた。泣けば泣くほど増す苛立ちに、ベッドの周りには、わたしが投げたティッシュ箱や雑誌や靴下があらゆる所に酷く散乱している。

 もちろん今日のデートは中止になった。電話で泣きわめいてすがってみたけれど、「今日は寝とけ」と一刀両断。わたしの体調を労ってくれていることは痛いほどわかっている。なのに、わたしは本当にかわいくない女だ。キッドは何も悪くないのに、むしろこんな時に体調を崩すわたしが悪いのに、デートが中止になったことに対して拗ねて、いじけて、一方的に電話を切ってしまった。

 あれから一度も鳴らない携帯だけをしっかりと握って、また一つ、何度目かわからない大きなため息を吐いた。そんな時、わたしのテンションにそぐわない明るい着信音がけたたましく鳴り響いて、わたしは慌てて通話ボタンを押した。

「うおっ、出るの速えー」
「…だってー」
「泣いてっと熱上がんぞ」
「だって…う゛ぅ…」
「だって?」

 わたしが勝手に拗ねて、一方的に電話を切ってしまったくせに、キッドの声は酷く優しくて、ぶわりとまた涙が溢れ出てきてしまう。

「…会いたかったあぁあ」

 バカだ、本当にバカだ。またキッドを困らせてしまった。勝手に風邪をひいて、勝手に拗ねて、会いたいと泣きわめく。さすがのキッドも呆れてしまうんじゃないかな、と言った後に物凄く後悔した。

「誰が会わないなんて、言ったんだよ」
「……へ?」

 あまりにも、わたしの予想と反した答えに、思わず変な声をあげてしまった。それとほぼ同時に聞こえてきた呼び鈴に、わたしの心臓は、急速に加速する。どうしよう、熱、上がっちゃうんじゃないかな。

 扉の向こうから「入るぞー」なんて、いよいよ愛しい声が聞こえてきたので、わたしの心臓はばくばくとまたスピードを上げて、どうしようもなく恥ずかしくなったので、とりあえず布団に潜り込んでみた。

「おーおー、荒れてんな」

 近づいてくる足音やキッドの声。こんなことなら、部屋綺麗にしておくんだったな、とか、もうちょっとかわいいルームウェアを着ておくんだったなとか、そんなことを考えてると、突然柔らかい声で名前を呼ばれて、心臓がぎゅーと痛くなる。

「いつまで隠れてんだ、バカ」

 ひょいと布団を剥がされて、ボサボサの髪の毛に色気もクソもないスウェット姿という何とも情けない姿を、ついにキッドに見られてしまった。だけども、そのボサボサの髪を撫でなれて、ぎゅうと抱き締められた頃には、もうそんなことなんてどうでも良かった。

「誕生日、おめでとう」

 痛いくらいにキッドに抱き締められたわたしのテンションと体温は、一気に急上昇するのであった。あー、やっぱり好きだなー。



世界で一番幸せなバースデーを






20110321
from かなえちゃん






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