「あー、あちィ……」

 夏島の夏は暑い。

 サウスブルー出身のキッド海賊団とはいえ、連日続く猛暑にすっかり参ってしまっていた。ガンガン降り注ぐ陽射しと、海面から上がってくる湿気で蒸す空気に、皆ぐったりしている。それはクルー全員に言えることで、船長であるキッドもまた同様に暑さに参っていた。

 甲板の日陰に出したデッキチェアに、怠そうに寄りかかるキッド。お馴染みのマントは部屋に置き去りにしたまま、上半身裸で、ヘビ柄のボトムは膝まで捲り上げて水を張ったタライに足を突っ込んでいる。いつもはバッチリ立たせた髪も、今日は心なしか立ち上がりが弱々しいような気さえする。

 なまえもすっかり暑さに参っており、正直軽く目眩さえしていた。しかし、愛するキッドの頭のため! となまえはドリンクを手にキッドの元に現れる。

「頭!アタシ特製愛のフルーツジュースです!」

 顔だけをなまえに向け、キッドは数秒それを見つめた後、ああ、と弱々しく言った。

「か、頭? マジで大丈夫スか?」
「いいからそれ飲ませろ。ついでに隣に来て扇げ」

 キッドがこんなに弱ったところを、なまえは見たことがなかった。いつもは精悍で男らしくて逞しい頭が、今は弱々しく自分に甘えている。(というのはなまえからの視点であり、キッドからすれば命令である)見慣れないちょっと可愛い頭の姿にドキドキしながら側まで行く。普段は白い肌が暑いせいか赤らんでいる。

「頭、どうぞ」

 それを受け取りゴクゴクと喉を鳴らして飲む。グラスの横から漏れた液体がキッドの顎を伝う。(うわー、エロい)それをじっと見つめるなまえ。飲み干して手の甲で口元を拭いながら、キッドは普段より弱った視線でなまえを睨んだ。

「早く扇げ」
「あっ、すいません頭! すぐに!」

 空になったグラスを受け取り、扇ぐものを取りにバタバタと船内へ走る。

―――

 どうも暑さに参っちまっていた。なまえの扇ぐ扇子によって生み出された風に、いくらか気分が和らぐ。頭にはめたゴーグルさえ熱を留まらせているような気がして、煩わしげにそれを外した。腕をそのまま、目元を覆い隠す。あー、あちィ。口をついて出る言葉はそればかりだ。

「頭ァ、すいません…アタシも、もうダメです…」

 その声に腕を外して視線だけを向ける。なまえは顔を真っ赤にしてそれでも手を動かし続ける。
 普段こそ頭、頭と煩くて適わないが、今日ばかりはやれデッキチェアだタライだジュースだと甲斐甲斐しく世話を焼くなまえに感謝した。野郎ではこうはいかない。つらそうな表情で俺を扇ぐなまえに、さすがに罪悪感がわく。もういい、と手を伸ばして扇子を止めさせる。

「すいません頭ァ……」

 なまえは申し訳なさそうに言い、ずるずると床にへたりこんだ。床に寝転がり、健康的な肌色を惜し気もなく晒している。タンクトップの隙間から覗く本来の白色の肌に目が行く。

「あー、海に飛び込みたい」
「飛び込んできたらどうだ」
「いやァ、今の体力じゃあちょっと、戻って来れるか不安っス……」

 のそりと体を起こして、壁を背に寄りかかる。パタパタと身に付けたタンクトップを掴んで揺らし、じっと俺の足元を見た。

「頭ァ、それもうぬるくなってますよね」

 タライの水のことだろう。

「ああ、まぁいい。俺はシャワーでも浴びてくる」

 貴重な水を大量に消費する風呂は、一日一度までとルールが決まっている。勿論船員たちには許さないが、言ってみればこの船のルールは俺だ。そんなルールは暑さの中で簡単に破られる。

「あ、頭ァ、ズルいっス。アタシもシャワー浴びたい」
「いいぞ」
「ですよねダメっスよね……え? 頭?」

 ほら、行くぞ。汗ばんだ腕を掴み上げる。なまえはバランスを崩しながらもよろよろと立ち上がり、驚いた表情でこちらを見上げていた。

「水が勿体ねえからな。一緒にだ」



イケナイ太陽

(か、頭ァ、それじゃあ余計暑くなっちまいます)






20101008
from ジュンちゃん






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