サッチ隊長はいつだって自分勝手で、自由奔放で。いまだって、言われた時間に部屋をノックするも返事がない。こんなこと稀じゃないから、慣れていると言えば慣れている。どうせマルコ隊長の部屋で呑んだくれているとかそういうオチだ。仕方なくマルコ隊長の部屋まで赴こうと踵を返すと同時に、向こうからそのマルコ隊長が歩いて来ている。

「なまえじゃねぇか、こんなところでなにしてんだよい」
「サッチ隊長に呼ばれて来たんですけど、マルコ隊長のところに来てませんか?」

 わたしの予想は外れて、マルコ隊長は首を横にふった。これは更に厄介だ。わたしはこれからサッチ隊長を探し回らなきゃいけないのか。ため息をつくわたしに、マルコ隊長はやんわりと笑ってわたしの頭を撫でる。

「わりぃな、期待にそえなくて」
「や、そんな」

 ああなんて大人なんだマルコ隊長は、なんて思っていたら、さっきまでいないと思われていた部屋の主がひょっこりと顔を出した。と、思ったんだけど。

「なんだなまえ、来てたのか」
「…だ、だれ?」
「だれ、じゃねぇよなまえてめぇ自分の隊の隊長の顔もわかんねぇのか」

 いつものリーゼントはどこへやら。固まっていたはずの髪の毛は、いまはしずくをポタポタとこぼしながら情けなく垂れ下がっている。サッチ隊長は、目を丸くしているわたしの腕を掴んで、素早く部屋に入る。一瞬、わたしの視界に入ったマルコ隊長は、さも面白いものを見たとでもいうように笑っていた。

「ったく、なんで風呂入ってる時間に来るんだよ」
「隊長が言った時間に来たんですよ」
「…そうだけど」

 サッチ隊長の長いため息が聞こえる。わたしはというと、なんだかサッチ隊長を見れずにどうにか視線を泳がして彼を凝視しないようつとめる。隊長の上半身裸くらい見慣れてるのに、もっと言ってしまえばパンツ一枚だって見慣れてしまっているのに、なぜか少しほてっている体にひど熱くなる。きっと髪型が違うせいだ。いつもの面白いリーゼントだったら、こんなことないのに。

「…なに目ぇそらしてんだよ」
「ていうか、早く服着てください」
「なに照れてんだ、いまさらだろ?」
「いいから」

 わたしが背中を向けると、その背中がふわりと温かくなって、サッチ隊長のあごがわたしの肩に乗った。思わず体を強張らせて、そのまま呼吸も忘れる。隊長の腕が、わたしのお腹に回ってがっちりと離さない。

「なまえ、意識しちゃった?」
「なななな、な、」
「どもりすぎだ、ばか」

 ほかほかしてて、お風呂上がり独特のかおりが、わたしの呼吸をしない鼻を通ってくる。サッチ隊長の髪の毛が、ふさ、とわたしの首をかすめて、そのまま隊長の舌が首筋を舐めた。

「ひ、や」
「もう、おちろよ」
「なに、言ってるんです、か」

 隊長は右手を離し、その手でわたしの顔を自分の方に向け、垂れた長い前髪の隙間からわたしを睨む。サッチ隊長だけど、サッチ隊長じゃない。

「好きだっつってんだよ、なまえが」
「…う、」

 こんな風に言われて、わたしがおちないはずがないとわかってる彼は、本当にいやなひとだ。

自分勝手で、自由奔放で、
加えて傲慢で、



そのくせ要領がいいからずるい

(その素顔は心臓に悪いから、ふたりのときだけにして)






20101027
from ジョンさん






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