いらっしゃいませ、ではなく、こんばんは、と挨拶されるようになったのはいつからだろう。ぼうっとそんなことを考えながら、おにぎりにしようか、サンドイッチにしようか、はたまたパスタにしようか悩んでいた。店の中には、雑誌のコーナーにひとりいたけれど、なにか買って出て行ってしまったらしい。しんとした店内を、フラフラとしていると、となりに人影。1番下の段を見ていたわたしは、ちら、と覗き込むように見てみる。そこには品物を揃えている店員のエースくんがいて、わたしと目が合って、にこりと笑った。

「こんばんは、今日はなに買うんですか?」
「いえ、まだ」

 今日は、なんて言われると、自分がどれだけ既製品で過ごしているかわかってしまって、少し恥ずかしい。苦笑いで返すと、彼はそのまま奥から手前、奥から手前、と品物を並べる。そのせわしなく動く手に、なぜかひどく目を奪われた。

「、なに?」
「あ、いや、いつも遅番お疲れ様です」
「ああ、そっちも、お疲れ様です」

 ところどころに感じる、少し乱暴な言葉遣い。敬語はあまり慣れていないらしい。無理して使っている感じが、なにか可愛らしいように、すごく親近感。だからこそ彼と話すようになったのだろうか。ふと、品物を並べていたエースくんの手が止まる。その頬は少し赤くなっていて、眉間には深くシワが刻まれている。

「…あの、あんまり、見んな、いでください」
「あ、ごめんなさい」
「いや、その、」

 ぼそり、ぼそり。
 いつもの笑顔はなく、険しい顔。じろじろと見られたら、誰だって嫌な気持ちになるだろう。再びお弁当に目を戻し、悩むふり。この、なぜか気まずくなってしまった空気から逃げたいけれど、それはまた失礼だと思うとこのままの方がまだいい気がする。

「あんたの名前、なに?」
「は?」

 表現しにくい、むずむずするこの感情は、なにか懐かしい。1番下の段に品物を並べようとしたエースくんが、わたしの目線と同じ高さになり、その黒く澄んだ目で見つめられる。

「この店以外でも会いてぇ、です」



わたしの唇が、名前を描く

(同時にわかる、この感情のなまえ)






20101222
from ジョンさん






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