中学の時から「洋平は花ちゃんが大好きなんだなあ」、とずっと思っていた。私の幼馴染みである花ちゃんは昔から好き嫌いが分かれる性格をしていて、根は良い奴なのに目をつけられる事が多く、しょっちゅう花ちゃんは私の家に怪我の消毒をして貰いに来ていた。そんな喧嘩っ早い花ちゃんに親友が出来た時は驚きはしなかったが、洋平の花ちゃんへの優しさには驚いた。中学の時にはどこ行っても一緒で、小学校までは私と花ちゃんだけで遊んでた放課後も、中学になってから洋平が加わった。幼馴染みであるため、昔から仲良くて一番信頼の出来る花ちゃんを取られた、なんて思った事は不思議と一度もなく、寧ろ花ちゃんを大事にしてくれる洋平に高校に入ってから惹かれていく自分がいて、花ちゃんがバスケを始めた時より驚いた。
 花ちゃんがバスケを始めて一年近く経とうとしてる時に、洋平は花ちゃんに押され、私にいわゆる告白をしてきた。くそ寒い冬の真夜中に私の家に来て、煙草を吸いながら、私を外に呼び出した。スウェットパンツにダウンを着て、髪を珍しく下ろしていた洋平は私が家の外に出て、「くさい」と煙草を指差して言えば、「悪ィ悪ィ」と笑いながら煙草を潰した。あまりにも寒くて早く家に戻りたかったため、洋平にも家に上がれば、そう聞こうとすれば「俺、お前の事好きなんだわ」といつもみたいな余裕そうな顔をしながら、そう言ってきた。「いや、ずっと言えずじまいだったんだが、花道も流石に痺れを切らしてな」、洋平の言った事が信じられなくて目に涙が溜まってきた私をよそに洋平は自嘲気味に笑った。やっぱり花ちゃん大好きなんじゃねえかこの野郎、そう思ったが、その時はとにかく嬉しくて照れ隠しに洋平の足を蹴ったのを覚えてる。
 「私達のお決まりのデートコースが放課後の花ちゃんバスケ見学ってのもどうかと思うけどね私」、付き合い始めてしばらく経った頃に、そう意地悪く洋平に言えばいつものように口角をあげて笑った。私達相当花ちゃんの事好きだなあ(実際初恋の相手は花ちゃんなんだが)、そう思いながらも、何だかんだで毎日二人で体育館に行くのが習慣になってしまってる自分がいる。流石に一年もやれば基礎が許せる程度には上達するのだろう、基礎練から外して貰った花ちゃんが楽しそうにコート上であちらこちらと俊敏に動く。

「あ、俺バイトだから行くわ、お前も来んだろ」
「あ、私残るわ、もうちょっと花ちゃん見とく」
「え、やだ」

 洋平のバイト先の私の帰路が同じ方向にあるため、普段は洋平がバイトに行く時に私も一緒についていくのだが、最近大会が近づいてきていて、特に頑張ってる花ちゃんの頑張りようを見るために今日は残る事にした。しかし、"いやお前何言ってんだよ"とでも言いたげな顔で笑いながら洋平は即答で「やだ」と言ってきた。「いやバイト行けよ」、正当な返事をすれば手首を掴まれた。

「花道もっと見て格好いいとか思われたら困るし」
「いやまあ頑張ってる花ちゃん格好いいけど」
「俺が嫌じゃん」
「いや大丈夫だから」

 そんなに心配する事ない、そういう意味を込めて返事をしていれば、洋平は渋々了解したのか「じゃあバイト行ってくるわ」とバイト先へと行った。その日残って分かったのが、バスケ部の練習は後半が特にキツくて面白い。そんな発見をした私はその日をきっかけに洋平のバイト時間が来ても、頻繁に残ってバスケ部を見学するようになった。今日も残ろう、そう思って「じゃあ私今日も残るわ、バイト頑張ってね」、力を分けるために軽く胸をどついてやれば、前みたく手首を掴まれた。強く掴まれた手首を引っ張られ、体のバランスを崩した所で洋平が計ってたかのように、自分の唇を私のそれと重ねてきた。唇が離れれば前見たく自嘲気味に笑い始めた。顔を少し俯け、上目遣いで私を見、洋平は口を開いた。

「俺、花道も好きだしお前も凄ェ好きなんだわ」
「たまに花ちゃんの方が好きでしょ」
「そんな事無ェよ、でも何か」
「ん?」
「二人が仲良いのは嬉しいけど、やっぱり楽しくねえな」

 笑いながらそんな事を言ってくるもんだから、思わず私の眉が下がってしまう。「気移りするわけないじゃん」、そう小声ながらも言えば、「知ってる」ってまた笑われた。じゃあ何が不満なんだよお前、と突っ込もうとすれば、また不意をつかれてキスをされた。

「でも楽しくねえだろ俺が」

 先程とは違って真剣な顔で言ってくる洋平に思わず視線を捕われる。いつも余裕そうな洋平がそんな事を思ってたのかと思うと内心かなり嬉しくて、何だか何も言えなくなってしまった。「花ちゃんも好きだけど、私が一番好きなのは洋平だって、洋平がよく知ってる筈じゃんか」、そう言ってやれば、機嫌が直ったのかまた笑いながら、「知ってる」と返された。ああ、もう、好きだなあ。



彗星ペン






20130903
title by alkalism
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -