家に招かれ、勢いで「いいよ」と言ってしまったものの、今更ながらどうしようと焦っている。まずキッドくんが下心ありで家に招いてくれたのか。それとも本当に下心無しでまだ付き合って一日程しか経ってないので(ていうか一日しか経ってないのに誘ってくるキッドくんもどうかと思うが)、取敢えずもっと親睦を深めよう的な何かで招いてくれたのか。ごにょごにょと一人で呟きながらあれこれ考えていると、ローに時間だ、と言われた。
 スタッフ用のロッカー室で着替えて(今日に限ってスポーツブラ着けてるっていうね!泣きたい!)、待たれるのも嫌だったので急いで店の外へと出る。案の定そこには寒そうに待ってるキッドくんがいた。マフラーに顔の下半分を隠し、両手をポケットに入れて、私に気づいていないのか横を向いている。そんなキッドくんの横顔が綺麗で思わず見とれてしまった自分が変態的で恥ずかしくて本当自分を殴りたくなる。私の足音で気付いたキッドくんはようやっとこちらに顔を向け、嬉しそうにお辞儀をしてきた。
 「どこらへんに住んでるの?」「有名なカポネっていうシェフがやってる店知ってます?」「知ってる知ってる!」「あそこのすぐ近くッス」「へえ」、なんて他愛も無い会話をしながらキッドくんの家へと一緒に歩いてく。徒歩15分程で着いたキッドくん家、学生らしいアパートだった。学生ならやっぱアパートで一人暮らしだよなあ、なんて考えながら階段をあがっていく。「ここなんですけど、」と二階の一番端っこのドアまで来ると、キッドくんはそう言った。ドアを開けようと鍵を差し込むと、キッドくんはその手を止め、私の方を向いてきた。

「...あの」
「うん?」
「俺なまえさんの事くっそ好きなんスよ」
「いや改めて言われると凄く照れるんだけど」
「本当に好きなんスよ、だから出来れば何もしたくねェっつうか」
「へ?」
「思わず勢いで家呼んじまったんスけど、何もしないように頑張るつもりなんで」
「意外と色々考えてるんだねキッドくん、私そこまで心配してなかったから大丈夫」
「いや、先に言っておかないとまじで余裕無くなるんで」

 「何かしでかしたら本当すいません」、まだ何もしてないのに、もう既にばつの悪そうな顔をしながらキッドくんはそう言い、今度こそ鍵を開けドアを開けた。「何かしでかしたら、」なんてそんな事を言われて意識しない方がおかしいと思う。そんな事を言われて嬉しいような恥ずかしいような思いでドアに突っ立ってれば、キッドくんに名前を呼ばれ、ハッと我に返る。お邪魔します、そう言って中に入れば存外部屋が綺麗にされていて驚いた。人は本当に見かけによらないよな、と思う。

「煙草臭かったらすいません」
「あ、キッドくんやっぱり吸うんだねえ」
「煙草嫌いだったら外で吸ってきますよ」
「いや、やっぱりローの友達なんだなあ、と思って」
「...どういう事ッスか?」
「キッドくん、私の前じゃ遠慮してるみたいだから、キッドくんがローと同じ事やってる所見ると、『少しずつ心開いてくれてるのかなあ』ってちょっと嬉しくなっちゃうんだよね」

 私が少し笑いながらそう言うと、キッドくんは少し頷きながらベランダのドアを開けて煙草を吸い始めた。ベランダにいるけど、結局顔を部屋の中に入れながら吸ってるいる為、部屋の中で吸ってるのと変わらないと思うのだが。煙草を吸い終え、灰皿に煙草を押して部屋に戻ってきたキッドくんに「ローと違って綺麗好きだね、キッドくん」と言えば、キッドくんはソファに座ってた私の前にしゃがんできた。どうしたんだろう、と私が口を開く前にキッドくんは軽くだが、私の唇にキスを落として来た。急に盛ったか、なんて私をよそにキッドくんは少し長めの溜め息をつきながら私を抱きしめて来た(ソファに座ってる私を床でしゃがみながら抱きしめて来てる為、抱きしめるというより私のお腹に顔をうずめてと言った感じだ)。

「こういう時、本当自分って子供だなって思うんスけど、」
「...どうしたの急に」
「トラファルガーと何でも比べられんの悔しいっつうか、」
「あ、ごめん、それは無意識でやってた...」
「知ってます、だから言いたくなかったんスけど嫉妬しちまったみてェで」

 また長い溜め息をつきながらキッドくんは更に私にキツく抱きついてきた。もう一度謝りながらキッドくんの頭を撫で、「この際だから色々我が儘言ってよ」、そう言った。するとキッドくんは立ち上がって私の隣に座った。「トラファルガーの野郎は名前で呼び捨てなのに、俺はいつまでもくん付けでイライラした事もあります」、少し険しい顔でそう言ったキッドくんの綺麗な横顔を見ていれば、たまらなくなって思わず彼の頬にキスをしてしまった。当のキッドくんは驚いた顔をしていたが、すぐに私の視界は男の顔をしたキッドくんでいっぱいになった。唇を何度も重ねられて、舌で口内を侵され、自分の体が熱くなっていくのか自分でも分かった。生暖かいキッドくんの吐息が首筋にかかり、思わず「キッドくん、」と名前を呼んでしまう。ああ、体が熱いなあ、キッドくん好きだなあ、そんな事をあれこれ頭の中でごちゃごちゃ考えながら、少し必死なキッドくんの顔を見つめる。そんな私に気付いたキッドくんは口を開いた。

「さっき『やっぱり学生なんだなあ』とか言ってたけど、そうッス、俺まだ学生なんです。なまえさんからしたら俺ってただの年下のガキだと思うけど、男として見てほしいし、もっと警戒してほしいに決まってます」

 「あんたくそ可愛いし、まじあんたが思ってる程俺余裕無ェんだよ」、キッドくんはそう言うとまた自分の唇を私のそれと重ね合わせてきた。あ、最後敬語忘れちゃってる、だとか考えていればキッドくんは何だか言いたい事を言ってスッキリしたのか(それとも我に返ったのか)、急に私から離れた。思い切り口内を侵され、体のラインをなぞられ、体が火照ってる上に若干涙目な私を見てキッドくんは一気に賢者タイムへ一人で突入してしまった。すいません、そう謝りながらキツく抱きしめてくるキッドくんに何も言えず、取り敢えず額にキスをしてやれば、少し嬉しそうな顔をした。「本当信じらんねェ、手出さないって決めてたんスよこれでも」、最後まで致してないとしても確かに思ってた以上に手が早かったなと思って笑えば、キッドくんは私の鼻をつまんできた。と同時にまたすいません、と謝ってきた。

「いやそんな謝んないでよ、今私罪悪感半端無いからね!」
「煽るなまえさんも悪いッスからね」
「実際私も耐えられなくなってキスしちゃった訳だし」

 「キッドくん、気付いてないと思うけど私これでもキッドくんに相当惹かれてるからね」、少し照れ笑いをしてそう言えば、キッドくんは俯いた。「照れてるの、ねえ照れてるの?」と意地悪く笑いながらそう言って、キッドくんの顔を覗き込めば、「うっせェ」とキッドくんも笑いながら(顔は赤いが)、また私の鼻をつまんできた。取り敢えず近い内に呼び名を変えなきゃいけないな、そう思いながら私はまたキッドくんと一緒に笑った。



美味しくあれ






20130821
title by 亡霊
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