― ミャオ。

 猫の助けを求めるような鳴声が聞こえて下を見たら案の定子猫がおった。よう映画であるみたいに段ボールの中にミルクが入っていただろうボウルと入れられて、脇には雨が降った時の為にと置かれた傘があった。ここ最近寒くなって来た上にこんな雨の日に置いてかれるとはな、震える子猫を見て、そら寒いわと思う。人間の俺でも寒いんじゃ、震えるに決まっとう。しゃがんで子猫に手を伸ばせば子猫は最初は顔を強張らせ、後ずさったが、後からは俺の臭いを確かめるように近寄ってきた。

「お前、捨てられたんか」

 そう聞けば子猫は答えるかのように自身の身を左右に振った。捨てるんやったら最初から飼うんじゃなか、若干怒りを覚える。顔はえらいべっぴんさんじゃから、何も考えずに可愛さだけで飼う事を決めた飼い主の様子が易々想像出来る。「お前さん、可哀想じゃのう」と子猫の顎下を撫でてそう言えば、それと同時になまえの声が聞こえた。

「仁王くん?」
「ん、なまえか」
「こんな所でどうした、って子猫だあ」

 なまえは子猫を発見すると笑顔になってびちゃびちゃと雨靴を鳴らしながら近寄ってきた。スカートなんにしゃがみおって、大丈夫なんかこいつ。白く細い足がすらりと露出しており、下着がもう少しで見える所までスカートがめくれている。こう普通女子が気にする事を男の俺が気になってしまう。子猫もやっぱり男より女の方が良いで、なまえにはすぐに頬を摺り寄せていた。何じゃ、この差は。

「この子、捨てられちゃったんだね」
「みたいじゃの」
「どうしよっか、仁王くんは飼えない?」
「飼えんことも無いけど、俺はなまえに飼ってほしいのう」
「何で?」

 「そりゃなまえが飼ったら、俺がお前ん家に行く口実が出来るじゃろ」、素直に思っていた事をサラッと言ってやった。クラスが一緒でも毎日話す程仲いい訳でもなか。かと言って気にならない訳じゃない、寧ろなまえは俺の中で気になる女子である。横を見ればなまえは顔を真っ赤にしながらこっちを見て固まっていた。我慢ならなくなった俺は傘を落としてなまえのか細い体、しかし若干体温の高い体を抱き締めてやった。ミャーなんて子猫の可愛らしい鳴声が聞こえたが、すまんが今はどうでもいい、そこで黙って俺となまえを見とってくれ。後でミルク買っちゃるき。



ヒーローたるもの、
小動物に優しくあるべし








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