キッドくんに告白され、私も一応人生初の告白というものを彼にして(まさか初めて告白する相手が赤髪の強面な年下になるとは思わなかった)、私達は今では世間でいう「カップル」になった。キッドくんは私が彼の事を好きである事など想定外だったのだろう。私が勇気を出して「私も好きです」と告白した後、彼はレストランでフォークを落とし、五分程硬直し、結局その夜彼は顔を紅潮させたまま私を家へと送って帰って行った。
 「キッドくんと付き合う事になった」、と次の日にローに笑顔で報告すれば、見事に見下したような笑いをした後、中指を立てて来た、この野郎。「んな事知ってるに決まってんだろ」、そうローが言ってきた。「俺がどんだけ長い事あいつと通話しなきゃいけなかったか知ってるか、鳥肌立つぞ」、そう言うとローはまるで汚物を見るような目で私を見てきた。いや、私何もしてないんですけど... 私明らかに何もしてないのに何この罪悪感... 話題を変えてローの機嫌を良くしよう、そう思ってローについこの間街で引っ掛けたという女の子とどうなったか聞けば、案の定かったるそうに欠伸をしながら『あァ、ヤリ捨てた』と言ってきたのでもうこいつと話す事を諦めた。いつかローも良い恋出来るといいね!、そういう気持ちを込めて親指を立ててローの肩を叩けば、見事に中指と無駄にイケメンな笑顔を返された。もう本当に話しかけるのやめよう、そう思ってグラスを拭く作業を始めようとすれば、店のベルが鳴った。結構夜遅めだったので、「こんな時間に来る輩は誰だよ」と入り口を見ればキッド君だった。

「今日来るの遅かったね」
「あ、バイトだったんスよ」
「ああ、そうなんだ、そりゃメールも来なかった訳だ」
「何スか、寂しかったんですか」

 昨日照れて黙り込んでたキッド君が嘘だったかのように、今目の前にいるキッド君は何だか余裕があって、年上の私が圧倒されてしまった。「寂しかったんですか」、キッド君のその一言があまりにも図星すぎたので思わずテーブルから去ろうとする。そうするとキッド君は「冗談ですって、」とテーブルから少し体を前のめりにし、若干焦りながら歩き去ろうとする私の手首を掴んできた。「寂しかったのは俺の方ッスから」、少し照れながらいつもと同じようにラテを頼むと私とは反対側を向いてしまった。素直なんだか素直じゃないのか... そんなよく分からないキッド君でも可愛いと思ってしまうんだから私も重症だと思う。実際メールも前程来なかったし、ここにも今日は来ないと思い、寂しいと思っていた。若干スキップ気味にバーの方へと戻れば、ローに無言で肩押された。いや酷い酷い。

「キッド君って普段あんな感じなの?」
「いやお前の前だからあんな爽やかなオーラ出してるだけだろ」
「え、ちょ、私騙されてるとか無いよね、普通に焦るんだけど」
「それは無ェと思う、けどまァ、それはお前が自分で判断すればいいだろ」
「そういう曖昧な答えが一番困るよね」
「まァ、お前が思ってる以上に大事にされてると思う」

 「あいつの過去の女の扱い方に比べたらな、」、珍しくローが真剣な顔でそう言ってくるので、私は思わず黙り込んでしまった。「あとラテ冷めんぞ」、せっかく作ったキッド君のラテを指差しながら(もちろん中指で)ローが言った。しまった、そう思いながら急いでラテをキッド君のいるテーブルへと運んでいく。小声でローに「ありがとう」と言えば、何でかうざがられた。ちょ、私ありがとうって言っただけなんですけど。遅くなったラテについてキッド君にお詫びすれば、キッド君は「いや大丈夫です、ラテ作ってるなまえさん見るの俺好きなんで」と返して来た。

「... 今日のキッド君、何でそんなに余裕があるの」
「余裕あるように見えますか俺」
「昨日の夜のキッド君と全然違くてこっちが焦る」
「実際俺いっぱいいっぱいッスよ、くそ緊張してます」

 そんな風に見えないけど、と少し笑えば、いつの間にかキッド君は少し立ち上がってて、自分の唇を私のそれと重ねていた。彼自身も驚いたのか周りを気にしながら、すいません、と謝ってきた。ローの方を振り向けば、案の定目撃してたらしく、両手で私達に中指を立ててきた(もうそんな事では動じなくなった私もどうかと思うが)。口元を隠して下を向くキッド君を見て、また思わず笑みがこぼれてしまう。「いや、あの、」、いつもみたいに赤くなるキッド君が用件を言うのを待つ。いつも以上に黙り込んでるので、どうしたの、そう言おうとすればキッド君の言葉によって遮られた。

「今日俺ん家来ませんか」

 赤くなりながら、若干上目遣いでそんな事を言ってくるもんだから、「これに落ちない女なんかいるのか」、そんな事を思いながら思わず私も紅潮してしまった。私がキッド君に弱いの知ってるくせに、悔しいが思いのほか惚れ込んでる私は「いいよ」と微笑んでしまうのをこらえながら言う。私が承認すると思わなかったのか、キッド君は何度も「まじッスか!」と目を大きく開きながら聞いてくる。そんな何度も聞かれると恥ずかしい私をよそにキッド君は嬉しそうに「じゃあ終わるまで待ってますね」と笑顔で言ってきた。その笑顔に逆らえる訳ないだろう!心の中で勝手に逆切れしながら、私は頷いた後バーの方へと戻って行った。



美味しくあれ






20130812
title by 亡霊
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