「あ、あいつまた来た」

 バイト仲間のローが若干嫌そうに、私に顎でカフェの入り口を指した(いい加減年下なんだから敬語使えよと言いたくなる)。「ゲッ」という効果音が似合う顔をしながらも、ローは軽い足取りで今さっき来店したお客さんにオーダーを取りに行く。そのお客さんというのもローの友人である『キッドくん』であり、来店する度にお互い嫌がる顔をするが、何だかんだで仲良いなと思う。会う度にお互いを貶しあってるがよく飽きないのか。ローと私の働くこのカフェ以外でもよく会ってると言うのだから、赤の他人の私が「どれだけ好きなのよ」とツッコみたくなる。
 そんな下らないことを考えていれば、ようやっと席についたキッドくんと目が合った。キッドくんが初めて来店した時にローに紹介をされた事があり、その時にほんの少しだけキッドくんと話した事があるのだが、キッドくんは見た目に合ってるように少し恐い人だと思った。「あ、こんにちはなまえさん」、そう言ってろくに目も合わせないで軽くお辞儀をされたのを覚えている(今思うと何故私が自己紹介する前に私の名前を知っていたのかは謎だが、大方ローが私の事を愚痴って知っている、と言った所だろう)。
 私より年下であるローの同級生だから、キッドくんも私より年下なのだが、彼の事を何も知らないくせにいつの間にか彼に惹かれてる自分が最近恐ろしい。取敢えず目が合ったので軽くお辞儀をすれば、キッドくんはすぐにローの方へと顔を向けてしまったので、自分が恥ずかしくなった。
 キッドくんに何か図星な事を言われたのだろう、不機嫌そうにローがカウンターへと戻ってきた。「なまえ、指名だ」、そう言ってローはキッドくんの座る席を指差した。そんな仲良くないんですけどwww嬉しいけどくっそ気まずいんですけどwwwそんな事を考えながら内心かなり焦りながらも、キッドくんの座る席へと行けば、キッドくんが少し照れ臭そうにまた軽くお辞儀をしてきた。

「あの、キッドくんどうしたん」
「いや、全然話した事無ェなと思って」
「ああ、そうだね…でもよくカフェ来てくれてるよね、ありがとう」
「トラファルガーもいるし、いつも忙しそうですよね」
「ローもいるしね」

 大切だと思ったので、ローがいる事を強調するようにリピートした。キッドくんはローの方を一瞥するとあからさまに溜息をついた。どれだけローのせいで苦労してるんかなこの子…可哀想に思えてきたキッドくんを若干哀れみの目を含め見ていると、キッドくんは顔つきを変え、私の方を向いた。「なまえさん年上だし、男に興味無さそうなんで、」、そこまで言うとキッドくんは心配そうに片眉を少し上げながら、私の顔を覗き込んできた。

「基本女なんてヤッて捨てるもんだと思ってたんですよ」
「ローとツルんでる位だからそうだろうね」
「ナンパも得意だし、女に困ったことないんですよ」

 『そんな事色々カミングアウトされても私キッドくんの事知らないから意味無いんですけどね!』そう言いたくなった気持ちを抑えながら聞いてると、とうとうキッドくんは顔を赤らめだした。ぐびっと先程オーダーしたラテの残りを飲み干し、少し悔しそうな顔もしながらまた口を開いた。

「それなのになまえさんのナンパの仕方が分からないんすよ」

 そう言い切ったキッドくんは更に赤くなって、ついには私から目をそらした。更には「ああああああ!!」と怒声のようなものを発しながら、自分の手で顔を隠し出した。恐い人かと思ってたキッドくんが目の前で顔を赤くしている、そんなギャップを目の当たりにした私の頭は混乱する他なかった。どうしよう、とカウンターの方を見れば気持ち悪い位ニヤニヤしたローがいて、あの端正な顔を殴りたい衝動に駆られた。このまま突っ立っていても何だしと思い、私は取敢えずキッドくんの前に勝手ながら座る事にした。私が席についてもキッドくんは顔を隠したままだったので、思い切って「私は基本素直な人は好きだよ」、と言えばキッドくんはやっと私の方を向いてくれた。



美味しくあれ






20130113
title by 亡霊
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