「お前ばっか好きみてェだな」

 そうお頭に言われた時は本当に「チューリップ死ねェェエエ!」と奇声を上げながら股間蹴ってやろうかと思った(実際にやったら命失うどころじゃないけど)。お頭に言われなくても分かってる、分かってるんですってば。だからもう頼むから「お前色々と可哀想だな」なんていやったらしい破壊力抜群の言葉を吐き出すのはやめて下さい。

「お頭うるさいです」
「事実だろ」
「お頭うるさいです」
「ンなだと他の女に掻っ攫われんぞ」
「…お頭詳しいお話をどうぞ」
「あいつだって言い寄られない訳じゃねェからな」
「…もうお頭あっち行って」
「死ねクソ女」
「…」

 お頭の辞書にはきっと励ましという言葉が載っていないんだろう、さっきから貶すような言葉ばかり吐き出すもんだから、ガラスで出来た私の心臓は今にも割れそうだ。ていうか最早割れてろ。お頭の衝撃的な発言にへこんで机に突っ伏して涙が出るのをこらえていれば、扉の開く音がした。それと同時に今まで話題となっていた人物の声が聞こえて、心臓が止まるかと思った。

「キッド、あいつがどこにいるか、」
「キラーか。丁度良い、こいつの糞つまんねェ話聞いてやれ」
「…大丈夫なのか?」
「お前が来れば大丈夫だろ」
「…すまなかったな、」

 お頭とキラーさんの会話が聞こえる。キラーさんは何も悪い事してないのに謝ってる、その姿を想像したら踏ん張っていた涙が零れ落ちそうになった。キラーさんがすまなかったと謝ると、お頭はいつもみたく喉を低く鳴らした。そして部屋から出る時、「あァ、何もしてねェから安心しろよ」と楽しそうに言ったのが聞こえた。何かされてたら私が暴れてるわ!

「おい、」
「…」
「顔を上げてみろ」
「キラーさんに見せられる程出来た顔じゃないのでお見せ出来ません」
「顔を上げて貰わないとお前の目を見て話せないだろう」

 キラーさんはそう言うと未だ机に突っ伏す私の頭を一度だけそっと撫でた。迷惑をかけてるのは分かってるけど、キラーさんにそんな嬉しい言葉を言って貰えて、単純ながらも気分が良くなった私は素直にゆっくりと、未だ零れ落ちそうな涙を踏ん張って顔を上げた。目の前を見れば、相変わらず仮面を被った一応恋人であるキラーさん。その仮面の向こう側でキラーさんは私の事をどんな風に見ているんだろうか、敏感なキラーさんの事だから私が泣きそうなのも知っているんだろう。「また泣きそうな顔をしてる」そう思わせて迷惑をかけているんじゃないか、私は。仮面の裏で私の事を嘲笑ってるんじゃないか。他からすればただの被害妄想かもしれないが、そう思えばそう思う程、そうなんじゃないかと思えてきて、今まで必死に堪えてた涙が一粒零れ落ちた。

「ごめ、なさい」

 無意識の内に謝罪の言葉を吐き出した私の口はきっと今赤子みたいにだらしなく開いているのだろう。そして涙を堪える私の顔はきっと見るに絶えない物だろう、そんな私にキラーさんはゆっくりとした動作で触れてきた。
 最初は頬に触れてきたが、その後は両手で私の目の下をぎゅっと軽めに押してきて、"早く泣いてしまえ"とでも言うかのように私の両目から涙を溢れ出させた。ああ、ほら、また自分迷惑をかけてるんじゃないか、そう思ってもう一度ごめんなさいと言えば今度は仮面を少しだけ上にずらしたキラーさんの顔がぐっと近づいてきて、自分の唇とキラーさんのそれが重なった。

「キラー、さん、」
「お前の事だからどうせ迷惑をかけてる、とか下らない事を考えているんだろう」
「だって、キラーさん、」
「俺だってそこまで器用な男じゃないんだ」

 キラーさんはそう言うと仮面を全部剥ぎ取って、それを私に着けた。何で私に、と聞くよりも前にキラーさんは「付けておけ」とだけ言った。素直に仮面を付けて鼻をすすり上げていれば、仮面をつけていれば誰にも泣き顔を見られないで済むだろうというキラーさんの優しい言葉が聞こえてきて、また思わず涙腺が緩んだ。
 キラーさんはまるで赤子をあやすみたいに私の手を握り、「俺はお前の事がちゃんと好きだから安心しろ、」といつもより小さな声でそう呟いた。やっぱり自分は単純だ、それで物凄く嬉しくなってしまった私は仮面を剥ぎ取ってキラーさんの顔を直に見ようとしたが、キラーさんはあの大きな手で私の顔を仮面と一緒に覆った。キラーさんの顔が見たい、そう素直に言ったが、キラーさんは後でな、の一点張りだった。また気分が沈んだ私の様子を感じ取ったのか、キラーさんはまた口を開いた。そしてやっぱりキラーさんは私の心臓をドキドキさせるのが上手だと思った。

"惚れた女にこんな赤面した姿なんて見せられる訳がないだろう、"



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