鍵失くすなんて本当ツイてねェと思った。さっきまでキラー、トラファルガー、ペンギン、シャチと呑んですっかり良い気分だったのに帰ってみたらこれだ。鍵は無いかと鞄のどこを探しても見当たらねェし、トラファルガーに知らないかと電話すれば「凍死しとけ」と鼻で笑われた。すっかり機嫌が悪くなった俺は取敢えず家のドアの前に座った。
 しばらく携帯で暇を潰していれば、カンカンカンと誰かが階段を上る音が聞こえた。そういえば俺って所謂『お隣さん』っていんのか。ずっといなかったが、確か先週くらいに誰か越してきた気がする、引越し屋の声が馬鹿デカくてウザかったな。まあ、どうせ話さねェし何でも良い、そう思って携帯にもう一度視線を戻せば、足音が止まった。それに気付いて顔を上げれば、俺のすぐ近くに女が立ってた。誰だこいつ、何がしてェんだ。そう思って口を開こうとすれば、先に言葉を発せられた。

「顔怖すぎでしょう」
「喧嘩売ってんのか」
「今ちょっと怖すぎて鼻水出ましたもん」
「知るかよ」

 何がしてェんだこいつ。取敢えず三階まで上がってきたってことは俺の隣人なんだろ。隣人って言っても今初めて会ったから知り合いですら無ェが。初めて会ったのにこの態度か、ふざけてるだろ。さっさと家に入れよという意味を込めて、眉間に皺を更に寄せて睨めば、「あ、そういえば私お隣さんです」と勝手に話題を変えやがった。

「もしかしなくても鍵失くしたんですよね?」
「うっせ」
「あらら…」
「いいから自分の家入れよ、寒ィだろ」

 自分でも何でこんな初対面なのに失礼な奴に、こんな優しい言葉をくれてやったのか分からないが、とにかく俺自身寒かったから家に入れと促した。すると隣人は「んー」と少し悩んだ後、持っていたコンビニの袋を俺に見せつけてきた。おいおい、肉まん大量買いしてんじゃねェか太んぞ。

「実は肉まん買いすぎたんですよ」
「見りゃ分かる」
「一緒に食べませんか」
「は?」
「実は最初ここに越してきてキッドさんの顔見た時、怖すぎて漏れるかと思ったんですけど」
「おい」
「今見てみたら結構綺麗な顔してますね、格好いいです」

 フッと小さく笑った後、隣人は自分の家の鍵を開けて「どうぞー」と中へ入って行った。流石に今日会ったばかりの奴の家に入るのは図々しすぎるだろうと思ったが、外寒ィし腹減ったし。そう思って重たい腰を上げて中に入った。すっかり隣人に興味を持ってしまった俺は、鍵失くして良かったとまで思い始めた。



20111222/303号室
主催企画「apartment」提出
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