「アホの金造ー!」

 店の前で掃き掃除をしてれば(じゃいけんで負けてんもん)、俺をアホ呼ばわりする声が聞こえた。女の声やったから嫌な予感しかせえへんかったけど、声のした方へ振り返れば案の定ヘラヘラ笑ったなまえがおって、改めて何で俺がこんなアホな女と付き合うてるのか不思議に思った。

「普通彼女やったら彼氏の事アホ呼ばわりせんやろ」
「でも金造実際にアホやん、柔兄も言うてたもん」
「アホっちゅう方がアホやねんぞ、せやからこの場合お前が一番のアホやな」
「今金造三回も言うたで」

 ああ言えばこう言う彼女に呆れて溜息をつけばまた「金造のアホー」とヘラヘラ笑いながら言われた。もう掃き掃除も終わったし店内に戻ろうと思ってちりとりと箒を手に持てば、いきなりなまえが俺の背中におぶさってきた。「おまっ!急に来たら危ないやろ!」、そう叱れば「金造めっちゃ格好ええからいきなり飛びついてもすぐに対応出来るかと思ってん」と返事してきた。せやんな、俺完璧やもんな、褒めてきたお礼に素直におぶってやれば、嬉しかったのか後ろからぎゅうっと抱きしめてきた。いやいや、おぶさってる時にぎゅうはあかんて、首絞まってるて。

「ちゅうかお前何しに来てん」
「今日はなあ、金造にプレゼントがあんねん」

 そう言うてなまえはえらい大きな鞄から一本の紫の花を取り出してきた。ああ、ホトトギスか。はい、と差し出されたので素直に受け取ればなまえは俺の花を持ってない方の手を握ってきた。花言葉は分かるかと聞かれて、必死に思い出そうとするけど、全く浮かばへん。何やったっけとなまえに聞けば一言「金造のものっちゅう意味や」と柔らかく微笑みながら言ってきた。

「いや全然答えになってへんねんけど」
「『永遠にあなたのもの』」

 ようやくホトトギスの本当の花言葉を言ってきたなまえに何ですぐに言わなかったんかと怒ろうと思ったが、花言葉の意味に驚いて思わず何も言えんくなってしまった。赤面する俺を見て気をよくしたなまえは嬉しそうにヘラヘラ笑ってきた。いやいや、笑ってる場合ちゃうねん、何やねんほんま、顔熱いわ。

「こんなんあかんやろお前…」
「いらんかった?」
「いや、ちゃうくて…何で普段アホな事ばっかしとる癖にこう不意打ち仕掛けてくるん?」

 不意打ちな告白に全力で照れた俺はとにかく高鳴る鼓動を抑えるのに必死んなった。普段好きの"す"の字もよう言わんくせに何でこんな俺が準備出来てない時にこないな告白の仕方してくるんかなあ…思わずニヤける口元を手で隠して、小さな声で「ありがとう、」と礼を言えばなまえはニィッと小さい子供みたいに笑った。ああ、もう今日帰ったら絶対廉造に自慢したろ。



20111030/ホトトギス
志摩の花屋、金造バージョンでした
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