閉店間際の志摩家の花屋に「よっ!」と片手を掲げて入れば、廉造と金造に「また来たんか」と嫌そうな顔をされた。別に彼氏である柔造に会いに来た訳で、あんたらに会いに来たんとちゃうねんから放っといてや!そういう意味を込めてベーッと舌を出せば、金造は舌を出し返してきた。末っ子の癖に金造よりも大人っぽい廉造は無言で店の奥の部屋を指差した。「柔兄犯したらあかんでー」なんて中学男子みたいな発言ばかりをしてくる金造に一言「去ね」と言って奥の部屋へと向かえば、後ろの方で「このクソ女!」とギャーギャー騒ぐ金造の声が聞こえた。
 店の奥に位置する部屋のドアを遠慮無く開ければ、私が来るのを知っていてか、柔造は私がいつも使うマグカップにお茶を入れてくれていた。マグカップに日本茶なんて少しアンバランスなこの感じが私は気に入っている。

「柔造ー!」
「おうおう、えらい元気やな、何か良え事でもあったんか?」
「いや、何も無いけど柔造の顔見たら何やえらい安心してもうた」
「そら嬉しいなあ」

 大きく笑いながら柔造は私にマグカップを差し出してきた。マグカップを貰って椅子に座れば、柔造も少し疲れた顔をして椅子に座った。今日の店の様子はどうやったかとか、金造が相変わらず子供っぽいとか、廉造が最近店に来た女の子に一目惚れしただとか、そんなたわいも話をしていれば、いつの間にかえらい時間が経っていて、私は急いで席を立つ。

「もう帰るん?」
「おん、次でもう終電やし、明日早いやろ」
「…あー、ちょお待ってや」

 いつもの柔造なら「ほな、明日な」ってすぐ送ってくれはるのに、私がドアノブに手をかけると柔造は私を呼び止めた。「これ、」そう言うて差し出してきたのは赤いかいらしい花やった。「これなあ、カーネーションやねんけど」、何や嬉しそうにそう言いながら柔造は一本私の耳にかけてきた。「花言葉が『あなたを熱愛します』やねん」、柔造がそう言い終えると同時に私は自分の顔が熱くなるのを感じた。
 思わず照れてしまって「、こないかいらしいの私には似合わんて」と花を耳から取ろうとすれば、私がそうする前に柔造は私を正面から抱きしめてきた。背の高い柔造より全然小さい私の頭の上に柔造は自分の顎を乗せてまた話し始めた。

「、え、急に何やの」
「カーネーション、今日店に入ってん」
「ああ、なるほど…せやから一本私にくれたって訳やな…」
「ちゃうねん、一本しか頼んでへんねん」

 「春にしか咲かん花やからよそからわざわざ頼んでん」と柔造は少し自慢げに言ってきた。そんな貴重なもんやったら尚更私は貰ったらあかんやろ、そう思って顔を上に上げれば、ニカッと微笑んできただけで柔造はそれ以上何も言って来なかった。
 結局柔造が何を言いたいのかよう分からんくて、私も黙り込んでいれば柔造は小さく溜息をして私から体を離した。「何となく察してや、」、と柔造は少し顔を赤くしながらそう言ってきた。それでも柔造が何を言いたいのか分からんくてひたすら柔造を見つめていれば、柔造は更に顔を赤くしてついに口を開いた。

「…あんな、」
「、ん」
「さっきカーネーションの花言葉教えたやんか、『あなたを熱愛します』て」
「おん、めっちゃ照れたわ」
「…これからもずっと愛してくでっていう一種の誓いみたいなものやってんけど…」
「…おん?」
「ああ、もうせやから、」

 「結婚してくれへんか」、えらい真面目な顔をして言ってくるもんやからまた思わず黙ってしもたけど、少し遅れて私の顔は一気に紅潮した。やっと意味を理解した私に気をよくしたのか柔造は少し噴出すように笑い出した。うわあ、ととにかく嬉し恥ずかしくて仕方が無い私は両手で自分の顔を隠した。そんな私を柔造は嬉しそうに包むように抱きしめてきた。
 返事が聞きたいのか、柔造はひょこっと私の顔を覗き込んできた。「柔造、」そう一言彼の名前を呼べば、柔造は嬉しそうに目を輝かせた。

「柔造のせいで終電逃してんけど」
「…あ、」
「…せやから今日は泊まらせてってや」

 自分でも驚く位小さな声でそう言えば、柔造は少しの間キョトンと驚いて呆けていたが、しばらくするとまた大きく微笑んで「おん!」と大きな声で返事をした後、私をぎゅうっとキツく抱きしめて来た。ほんまは今日いちゃいちゃするつもり無かってんけどなあ、といつの間にか床に落ちていた真っ赤なカーネーションを見ながら、金造のあの中学男子的な発言もあながち間違っていないかもしれへんなと思った。ああ、ほんま幸せやな。



20111030/カーネーション
志摩の花屋、柔造バージョンでした
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -