「いらっしゃいませえ」

 仕事帰りで疲れてる私とは正反対に、明るく呼びかけをする男の子の声に気がついて顔をあげれば、最近噂になってる花屋が目に入った。耳が痛くなる程度には周りからこの花屋について聞かされていた。顔のえらく整った愛想の良い男の子がどうやら働いているらしく、そういえば会社の同僚も頻繁にこの花屋に通っていると言っていた。話には聞いていたが、実際この花屋を見たのは初めてだったので、洒落た店構えに圧倒されてしまった私はその場に立ち尽くしてしばらく店を眺めていた。

「お姉さん、どうかしました?」

 いわゆる営業スマイルというやつなのだろうか、さっきまで呼びかけをしていたピンク色の髪をした男の子は満面の笑みで私に話しかけてきた。お店がお洒落だったので思わず見とれてしまいました、なんて人見知りな私にそんな事言える訳も無くどうしようかと思っていたら、男の子は「花、興味あります?」と何も言わない私を責めずにそう優しく聞いてきてくれた。すぐにコクリと頷けば男の子は嬉しそうに笑って、私の手首あたりを掴むと店内へ入れてくれた。
 花には興味がある方だった。昔花でよく遊んだせいもあるが、花の美しさにはいつも魅了されていた。全ての花につけられた花言葉には特に興味があった。そして花言葉の意味合いを込めて花を贈る人は素直に素敵だと思った。

「お、初めて見るお客さんやな」
「柔兄はええから作業続けといてや」
「うおお、えらいべっぴんさんやん」
「金兄もあっち行っといてえや!」

 店内に入ると黒髪と金髪の男の人がいて、二人のテンションに驚いてしまい思わず足を止めてしまった。入るのを少し躊躇った私に気付いたピンク色の髪の男の子は「ほんますんまへん、」と苦笑いしながら謝ってきてくれた。男の子はすぐさま黒髪と金髪の男の人二人を奥の部屋におしやってから、急いで私の方へ戻ってき、「どんな花に興味があらはるんです?」とまたもや営業スマイルと一緒に聞いてきた。聞いてきたと同時に男の子は口に手を当てて、"しまった"とでも言いたげな顔をした。そういえばいつの間にか標準語じゃなくなってるや、その事に気付いて少し笑ってしまった。

「…関西弁、ですか?」
「あー、正確には京都弁なんですわ」
「、素敵ですね」

 方言が好きなため、素直に素敵だと言えば男の子は少し驚いた顔をした後、「べっぴんさんに言われると照れますわあ」と頭を掻きながら笑顔でそう返してきた。"べっぴんさん"というキーワードに照れて、少し顔を赤くしていれば男の子はまた柔らかく笑った。
 「せや!」、男の子は急に店の奥の方へ走っていき、一本の花を持ってきた。「これ、クジャクソウってやつやねんけど…」、そう言って渡される。

「お姉さん、花言葉にも興味あらはります?」
「、大好きです」
「せやったらちょうどええわ、家帰ったら是非クジャクソウの花言葉調べてみて下さい」

 "花言葉が分かって、それでもまた来てもええ思たら是非来て下さい"、そう照れくさそうに言う男の子を不思議に思いながらも取敢えずお礼を言った。いくらかと聞けばタダであげますと言われ、悪い気がして何度も払うと言ったが、男の子の気に圧され、結局タダで貰ってしまった。
 帰りの電車の中で花言葉を調べなきゃいけない事を思い出し、携帯で『クジャクソウ 花言葉』と検索すれば、たくさんのサイトが出てき、一番最初のサイトをクリックする。「クジャクソウの花言葉は、と…」、スクロールしながらクジャクソウの花言葉を探せば『一目惚れ』という単語が目に入り、私は先程男の子に『べっぴんさん』と呼ばれた時よりもっともっと照れてしまい、頬が一気に熱くなった。



20111028/孔雀草
志摩の花屋、廉造バージョンでした
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