「なまえ、」

 意識が朦朧としてる中、誰かが自分の名前を呼ぶのが聞こえてうっすらと目を開ければ視界にマルコがいた。一緒に住んでる私にしか分からない、髪の毛ボサボサ、そして眼鏡をかけたマルコに甘えるように両手を差し出せば、マルコは子供を見るみたいに柔らかく笑って、私の期待に応えるように体を屈ませて私を優しく抱きしめてきた。

「お早う、マルコ」
「おう、朝飯出来てるよい」

 休日にしか食べる事の出来ないマルコの朝食に胸が高鳴る。だが未だ覚醒しきってない私に気付いたマルコは私の鼻のてっぺんをカプッと甘噛みしてきた。痛くないけど、痛いと笑いながら、マルコの方に手を差し伸べた。するとマルコは私の手をしっかり掴んで、私の上半身を起こすのを手伝った。
 マルコの作った朝ご飯の良い匂いが部屋に充満してることに今更ながら気付いて思わず頬が緩んでしまう。そんな私に気をよくしたのかマルコはニヤけながら(照れてるんだなあ)手を後ろに差し出しながら私に背中を向けてきた。私はと言うとよし来たとでも言うようにすかさずマルコの背中に飛び乗っておんぶして貰いながらダイニングへと向かった。
 ダイニングテーブルに行き着き、マルコは私を背中から降ろし、私は二人分のマグカップを棚から取り出し、コーヒーを入れた。コーヒーを入れるのは一緒に住み始めてから私の担当となっている。プロみたいに気取ってコーヒーをマグカップに注げば、ダイニングテーブルから私を見ていたマルコは「ばーか」とだけ言ってきた。マグカップ二つを持ってダイニングテーブルに行き、一緒に「いただきます」と言ってようやく朝ご飯を食べ始めた。

「マルコの作る朝ご飯大好きー」
「そりゃどうも」
「でもマルコがご飯作る所見れなかったのは残念だなあ」
「寝坊助なお前が悪ィんだろい」

 「でもマルコに起こして貰いたいもん」、そう素直に言えばマルコは少し照れたように「アホンダラ、」とだけ言って次々に食べ物を口へと運んでいった。マルコが照れてる事が何か無償に嬉しくなってニィッと小さい子供みたいに笑えば、マルコは「ああ、適わねえな」と少し呆れたように笑ってから私を自分の方へと手招きした。
 どうしたのだろうと不思議に思いながら、反対側に座っていたマルコの方へと歩けば、マルコは眼鏡を外した。顔を近づける為にするりと私の首の後ろに手を置いたマルコはすかさず私の唇に軽くキスを落とした。コーヒーの苦い味がしたね、なんて二人で笑いながら過ごすこんな朝ほど幸せなものは無いなと思った。



20111008/妖精図鑑
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