目の前で泣くなまえを見て、約束ってもんは気安くするもんじゃねえなと改めて実感した。
 昔からガキ二人の面倒を見てくれていたなまえは修道院の仲間の一員と言ってもいいくらい俺達に馴染んでいた。実の娘では無いが、燐と雪男を引き取る前から知ってるもんだから娘みたいに大事に思っている。燐と雪男同様、俺にとっちゃまだまだなまえも子供で可愛らしい、そんな程度にしか見ていなかった。大人ってのは子供の成長を見守っていくもんだろう、恋愛感情無しに愛を注ぎ込みながら成長を見届けるのが普通だろう。
 「獅郎さん、私もう大人になりました」、数分前真面目な顔をしてそう俺に言ってきたなまえが最初何の事を言っているのか分からなかったが、次になまえの口から出てきた"約束"という単語ですぐに理解した。ああ、まさか覚えてるなんて、と昔なまえととんでもない約束をしてしまった自分にほとほと呆れる。
 幼馴染同士に限らず、親子同士でも「大きくなったらお嫁さんになる!」っていうのは誰にでもあるもんだろう。それと同じで、なまえは小さい頃に毎日のように「獅郎さん大好き!」と俺に耳が痛くなる程言ってきてた。まだまだ小さかったなまえを喜ばせる為に「大きくなったら俺がなまえの旦那になってやる」と指きりげんまんをしてやった。小さい頃にした約束だからどうせ忘れるだろう、そう思っていたのにどうやら間違っていたらしい。

「獅郎さん、」
「なまえ、今日はもう帰れ」
「獅郎さん、私はもう子供じゃないんです」

 いつも燐の相手してヘラヘラ笑ってるこいつがこんな真面目な顔するなんてなあ、なんて少し冷静に驚きながら、なまえが言おうとしてる事を俺は一生懸命に言わせまいとした。小せえ頃はあんなに小さくて可愛らしかったのに、いつの間にこんなに成長しやがったんだよ。自分でもいつの間に、いくつも年下ななまえに家族愛とは違う感情を持ち合わせていたのかは知らないが、目の前にいるなまえに少なからず一生をかけて大切にしてやりたいと思う程好きになっていた。なまえも自分で言ってた通り、大人だから俺の言いたい事は分かるだろう、そう思って無言で見つめてやれば、なまえの目から静かに涙が流れた。
 涙が溢れんばかりに出てくるにも関わらず、まっすぐ俺の目を見るなまえを見ていればどうしようも無い気持ちになってしまい、俺はなまえの頭の上に手を優しく置いた。

「、まさか覚えてると思ってねえし、まさかこんなに綺麗になるとも思わなかった」

 なまえも俺が何を言いたいのか分かったらしく、ただひたすら涙を流しながら俺を見てきた。こんな事になるんなら約束なんてしなきゃ良かったと今更ながら後悔した。なまえの頭の上に置いていた手をなまえの目元まで滑らせ、親指で涙をぬぐってやった。
 「獅郎さん、」そう消え入りそうな声で俺の声を呼んだなまえにとにかく俺は謝るしかなかった。悪い、申し訳なさでいっぱいで、そう心の中で必死に呟きながら俺はなまえの額にキスを落とした。



20111103/ふたりで生む孤独
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