「雪ちゃん」

 今日は兄さんが志摩くんと"遊び"に行ったことを(どうせ二人して女性を誑かしてくるんだろう)彼女に伝えれば、予想通り僕の部屋に来ると言い出した。でも僕は先に課題終わらせなきゃだから、と部屋に着いたと同時にそう言って課題に取り組めば、彼女は頬を膨らませながら、僕のSQを手に取りベッドに寝転がった。兄さんと同じで彼女はシーツをぐしゃぐしゃにするから嫌なんだよなあ、と思ったが、それでも何も言わない僕はやっぱり彼女には甘いのだと思う。
 あともう少しで課題を終える、という所で彼女は飽きたのか、僕の椅子の横にしゃがみこんできた。「どうしたの、なまえ」と彼女の方を見れば、じいっと無言で見つめてくるだけだった。視線が痛いが、考え事が済むまで放っておこう、そう思って課題に再度取り掛かった。
 が、しかし十分も経たない内に彼女は今度は僕のTシャツの裾をくいくいと引っ張ってきた。何か食べる物が欲しいのか、とつい兄さんみたいな扱いをしてしまいそうになるが、今日の彼女の様子はおかしい。あと少しで課題終わるから、と優しく頭を撫でて課題に向き直れば、視界の隅で顔を俯かせてうなだれる彼女が見えた。

「ごめん、待たせて、」
「…」
「なまえ?」
「、雪ちゃん」

 眉をハの字にしながらひたすら僕を見つめてくるこの恋人に僕はどう接したら良いのか分からなくなってきた。僕の座っていた椅子のすぐ横でしゃがみこんでいたなまえの目線にあわせるように、僕も椅子を動かしてなまえの前で同じようにしゃがんだ。もう一度どうしたの、と聞けば彼女は床にだらんと寝そべっていた僕の手に恐る恐る触れてきた。ああ、そうか、甘えているのか。そう理解した僕は眼鏡を外して彼女と額を自分のそれとコツンとくっつける。近距離で見える彼女の長い睫毛、形の良い鼻、そしてまだまだ幼さが残る顔立ち。素直に綺麗だなあ、そう思いながら目を瞑って彼女の唇に口付けをした。唇を離した後も額をくっつけてお互いを見つめていれば、なまえは小さく吹きだして笑った。

「…僕何か変な事した?」
「ううん、そうじゃなくて、雪ちゃんは私の事よく分かってるなあと思って」
「そうかな」
「うん、雪ちゃんだからこそ分かるんだと思う」

 「そんな雪ちゃんが大好きだよ」と照れ笑いをしながら小さく微笑む彼女を見て、何だか嬉しいような"興奮"と言ったような感情が沸き上がるのが自分でも分かった。我慢ならなくなって、予告無しに彼女にキスをすれば彼女は驚いた顔をした。「ごめん、ちょっともう余裕無い」、そう言ってもう一度強引にキスをすれば、彼女の両腕が僕の背中に回ってきて、僕は外出した兄さんに久しぶりに感謝した。



20110930/街も星も輝くのは君のせい
title by alkalism
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