「この世にはさ、たくさんの人が生きてるんだよね」
「凄ェ適当だな」
「何十億人といるこの世で私とキッドは会えたんだよ…」
「…何が言いてェ」
「この奇跡的な運命を記念してお願いだから、私の彼氏として私の友達と会って下さい」

 親友であるキッドの部屋で、ゲームをするキッドを横に長らく会ってない中学時代の友達とメールをしていれば、いつの間にか話題は"彼氏"になっていた。その子は今彼氏がいないらしいが、私も彼女と同じ干物女だと思ったのか(まあ実際そうなのだが)「なまえちゃんも彼氏いないでしょ?(笑)」と言われた。プライドと勢いだけで"いる"と返事をすれば、何故か流れで、彼女に私の架空の彼氏を紹介する事になっていた。今更「あれは嘘でした」なんて言える訳も無いので、そうだ、キッドを彼氏として紹介すれば良いんじゃないかという案を私は思いついた。
 と、キッドに経緯を説明すれば、私の頭に拳骨が落ちた。「痛ェ!」と涙目になりながら拳骨くらわされた部分をさすればキッドに鼻で笑われた。

「お願い!この奇跡的な出会いに乾杯しよう!?「君の瞳に乾杯」しよう!?」
「お前の顔の残念さに乾杯してやるよ」
「彼氏はそんな事彼女に言いません」
「俺は素で『痛ェ!』なんて男みたいな反応する女とは付き合わねェ」

 親友だから頼りにしたのに…まさかこんなにもあっさり断られるとも思ってなかったので、床に寝転がって落ち込んでいれば、キッドに本当の事を言えばいいじゃねえかと言われた。そんな事出来る訳ないだろばーか、と心の中で叫び、「もういい、ローにお願いする」と床に横たわったまま言えば、私の足元の近くで座っていたキッドはペシッと今度は私のくるぶし辺りをはたいてきた。

「誰にも頼らねェで本当の事言えばいいだけの事だろ!」
「キッドは事の重大さを分かってないんだよ!」
「いいから約束を断るか、本当の事を言うかどっちかにしろ」
「もうキッドに頼んでないからいいじゃん!何でキッドがそんなに口挟むんだよー!」

 近くにあったクッションをキッドに投げつけながらそう言ってやれば、キッドはすぐさま私から目をそらした。キッドの様子おかしい、そう思って上半身を起こしてキッドの顔を覗き込めば何でか勝手に赤くなっていた。

「うわ、真っ赤」
「うっせェ死ね」

 何だか可愛らしいキッドに思わず笑えば、キッドをもう一度死ねと暴言を吐いてきたが、そんな事もう慣れているから気にしない。顔の紅潮が引けば、キッドはいつも以上に眉間に皺を寄せて、ようやく私の方を向いた。「約束を断れとは言わねえから、トラファルガーに頼るな、トラファルガー以外の奴にも頼るな」、そう強く言ってきたキッドに「うん?」と曖昧ながらも返事をすれば溜息をつかれた。

「お前何も分かってねえだろ」
「…うん」
「だから本当の彼氏としてなら行ってやるっつってんだよ」
「あーなるほ…は?」

 まさかの急展開に私の脳がついていける筈も無く、返事に困っていればキッドは「行くのか行かねえのか」と返事を急かしてきた。自分でも何でか分からないが「行く!」と即答した私にキッドは満足したのか、笑って私の頭をぐしゃぐしゃ撫でてきた。何だか照れてしまって顔を俯かせればキッドは面白がってか私の額にキスとやらを落としてきた。何が何だか分からない私をよそに目の前の親友はただただ愉快に笑っていた。ただからかっていると思ってた彼が本気である事を知るのはこのすぐ後のこと。



20110928/怪物にハグして
title by √A
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