ぽたり、と小さな雨粒が私の腕に落ちた途端、私の気分は極端に下がった。
 結局この間は気まずい雰囲気になりながらも、いつものようにたわいも無い世間話もして、最終的には一人じゃ危ないからとマルコさんは私の家まで一緒に歩いてくれた。お礼として買ったおにぎりを一つあげようとしたが、"一緒に食いてえからまた今度くれよい"と笑顔で言われ、部屋に入った瞬間私はへなへなと玄関先で座り込んでしまって、いつもマルコさんの買っていくおにぎりを買って良かったと心の底から思った。
 今日は他の人のシフトで入っていたのでいつもと時間帯が違く、昼には交代となった。昨日みたくおにぎりを買い、家に帰ろうと歩いていればぽつり、冒頭に至る。傘持ってきてないし!今日晴天だって言ってたじゃん女子アナ!とパニクりながら雨宿りしようと入れるお店を探しに走れば、遠くで工事現場の作業員達が「お疲れー」と挨拶をしながら解散する様子が見えた。走りながらご苦労様でーすと心の中で感謝しながら工事現場横を走れば、作業員の一人と目が合った。見たことあるなと思ったが、私はそのまま通り過ぎた。
 やっと雨宿りの出来るバス停を見つけ(利用はしないが)、急いでハンカチを取り出して手足を拭く。何で急に降ってくるのかなあと半ば女子アナを恨みながら、どうやって帰ろうとぼーっとしながら考えていれば、どこからかバシャバシャと誰かの走る音が聞こえた。"まさかこの人も私と同じく雨宿り組か、あ、でも二人一緒にバス停で雨宿りとか気まずいよな"なんて呑気に考えながらバス停から顔を出してみたら、傘を片手に走ってくるマルコさんが見えた。

「えええええ、マルコさん?」
「お前呼んだのに無視すんじゃねェよい」
「え、呼んだんですか私のこと」
「さっき俺の働く工事現場を通り過ぎただろ」

 見たことあるなと思ったらマルコさんだったのか!と今更ながら気づき、呼ばれたことに気づかなくてすいませんと謝罪をしておいた。マルコさんは別に良い、と言って私がもうバイト終わったのか聞いてきた。そうだと言ってマルコさんの仕事についても聞けば、雨が降ったから今日は作業中断したらしい。話し終わるとマルコさんは顔をふるふると犬のように振り、水滴を飛ばしていた。いつもふわふわな髪の毛も雨のせいでべちゃっと崩れており、何だかそれが可愛くて思わず笑ってしまった。

「…何だよい」
「っ、すいません、ただ髪型可愛いなあと思って」
「…!馬鹿にしてんだろい」
「してませんって、っ、すいません」
「ったく、せっかく人が傘持ってきてやったって言うのに」

 言われた事が信じられなくて笑うのを止めてマルコさんの方を見れば、傘を少し上げながら"傘、いるだろい"と少し嫌味ったらしく笑いながら言われた。もちろん必要ですけども!流石に私も"あ、ありがとうございます優しいお方ですねではさようなら"、なんて言える程図々しくないので、大丈夫ですと断っておく。

「いいんだよい、俺が勝手に持ってきてやったんだから」
「いやいやでもマルコさんだってずぶ濡れじゃないですか!」
「俺は別に良いんだよい、お前が風邪ひいたりなんかしたら俺が困るしな」
「私が借りた事によってマルコさんが風邪ひいたら私の方が困りますよ!」
「良いから借りろっつってんだ、俺が貸してやりてえんだよい」

 ずいっと傘を押し付けられ、マルコさんはもう一度髪の毛を乾かす為に頭を振った。濡れているマルコさんを見て更に申し訳ない気持ちになった。また借りを作ってしまうことになる、どうしよう、と考えていればふと自分の買ったおにぎりが目に入った。この前一緒に食べようと言っていた事を思い出し、私は"一緒に食べよう"という意を込めておにぎりの入ったビニール袋をマルコさんの前に掲げた。

「これ!おにぎりです!」
「…?ああ、そうだねい」
「そうです、おにぎりです!」
「…何だよい、一緒に食べるってか?」

 マルコさんは少しおどけたようにそう言ったが、その通りだったので私は"あ、よく分かりましたね。一緒に食べませんか"と返事をした。するとマルコさんは目を大きくして「は?」と聞き返してきた。自分でそう言ったのに何でそこまで驚いているのか分からないが、この前マルコさんが一緒に食べようって言ってた事を思い出させた。ここでも何だから少し歩けばある私のアパートで食べましょうよと提案すれば、マルコさんは顔を片手で覆い隠しながらため息をついた。

「いや、俺が悪かったよい」
「ええ、何がですか」
「…流石に家まで押しかけるなんて事出来ねえよい」
「でも一緒に食べようって言ったのマルコさんじゃないですか、食べましょうよ」

 ね、そう言ってマルコさんが貸してくれた傘を広げ、マルコさんにも中に入るように言う。マルコさんは困った顔をしてまた溜息を吐いた。そんなに溜息吐いたら幸せ逃げるのになあと思いながら、マルコさんが傘の中に入ってくるのを待っていればマルコさんは私から傘を奪い取って自分が持つと言った。素直に嬉しかったので笑顔でありがとうございますと礼を言えば、マルコさんは今度は顔を少し赤くして「本当困った奴だよい、」と小さくこぼした。



20110831/水槽銀河
title by alkalism
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -