隣に住む幼馴染の家に行くと、いつもそこに広がるのはたまりにたまった空の缶ビールとゲーム、漫画、そして横たわってゴロゴロする大柄の男。彼の周りの人は彼を「干物男」と呼ぶ。
 いつものように古ぼけたアパートの三階に位置する自分の部屋のドアを開け、廊下に出る。そして右に二歩進み、右を向く。目の前にある306と書かれた部屋のドアノブを握り、開ける。チャイムなんてこの家には不要だ。私は幼馴染だから勝手に出入りしているが、例え配達員の人が来たとしてもこの部屋の住人は気付かない。いや、きっと気付いているのだろうが、気付いてないフリをするのだ、奴は。何て自分勝手な奴だ、そう思いながら玄関で靴を脱ぎ、部屋の中へと入る。

「キッドー」
「……」
「キッドってばー」
「……」

 何度呼んでも返事をしない奴のTシャツの裾を思い切りぐいぐい引っ張る。ゲームに相当集中していたようで、裾を引っ張ってようやく私の存在に気付いた幼馴染ことキッド。一昨日部屋に来たときと格好が同じだから、きっとここ二日間風呂にも入らずゲームをやり込んでたんだろう。キッドは私に気付くと画面をチラチラ観ながら(寧ろ画面に集中して、私の方をチラチラ見てた)、片手を上げて長い五本の指を私の前にかざしてきた、5分ほど待てという事なのだろう。暇を潰す為、そこらへんに無造作に置かれていた漫画を手に取って読む。

「なまえ、」
「おお、終わった?」
「いや、セーブした」
「かたじけ無い」
「別にいいが、飯食いに来たんだろお前」
「当たり前じゃん、何言ってんの」
「死ね」

 キッドは見た目はこんな、眼鏡をかけて前髪をゴムで結んで(私があげた奴だから妙に可愛い)、くしゃくしゃになったシャツを着て、と決してそこまで清潔でも無い格好をしてるが、料理は昔から上手くて、小さい頃から私はしょっちゅうキッドにご飯を作って貰っていた。私が料理をしないのも、今までずっとキッドと一緒に生活してきたから、というのもあるだろう。
 そこらへんに置いてあった上着を羽織って玄関に向かうキッドにどこ行くのと問いかける。聞けば、どうやら家に何もないから近くのスーパーで具などを買いに行くらしい。私も家で待つのも暇だしと一緒に行く事にした。早くしろーと玄関から聞こえてくるキッドの声にはいはい、と簡単に返事をしながらキッドの上着を勝手に借りて羽織る。ドアにもたれかかって待っていたキッドは勝手に上着を借りてる私はもう気にならないのか何も言わずにドアの鍵を閉めた。

「ご飯何ー?」
「んー、豪華なもんを作れねえぞ」
「徹夜なんかするからだよ、ちゃんと寝ろよ」
「うるせえ、で何食うんだ」
「無難にレッツ☆オムライス」

 またかよ、と嫌そうにするキッドはスーパーのかごを手に取る。まあ、私が食べたいだけなんだけども。流石に料理作ってもらうし、具材のお金も払ってもらうしで悪い気がしたので、かごをキッドの手から奪い取る。するとすかさず奪い返してくるキッド。どうやら故意的にこのように紳士的な行為をする訳では無いようで、もっと女の子に興味を持って、実践したらモテるのに、と残念に思う。
 会計を済ませて二つあるエコバッグを一個ずつお互いに持って家に帰る。帰路の途中、私の友人と偶然会ってしまい、「彼氏ー?いいなあ」と散々誤解をされてしまった。キッドの方はというと小さくお辞儀をするとそっぽを向いて黙り込んでしまった。たわいもない話をほんの少しだけ友人として、別れるとキッドはまた話し出した。

「キッド、ああいう子はどう?」
「全く興味無ェ」
「本当に恋愛事に興味無いんだね、可哀想」
「勝手に人を哀れんでんじゃねえ」
「私が誰か紹介してあげようか?」
「だから興味無えっつってんだろ」
「いやあ、私達もう大学生だし一度くらい恋愛しとこうよ」

 そう言った私にキッドは全く聞く耳持たず、と言った感じで"はいはい"と簡単にあしらっていた。家に着くとキッドは早速オムライスを作ってくれて、いつも通り美味しくて、お腹一杯食べたと同時に私は睡魔に襲われた。
 家に帰った方がいいよな、そうだよな、と思いながらも疲れで言うことの聞かない体を無理矢理起こした。しかし私が面倒臭がってる事を察したキッドはもう慣れてるからかすぐに私に駆け寄ってき、肩を貸してくれ、自分の布団に入れてくれた。答えは分かってるのにいつものようにキッドはどこで寝るのと聞けばソファで寝ると言い、キッドは電気を消した。それと同時に目を瞑り、恋愛感情無しだが寄り添っていられる、こういう関係がいつまでも続けば良いと思った。



20110804/306号室
続きます
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