菊さんは男性なのに美しいという言葉が良く似合う。
 朝起きると菊さんは必ず起きていて、寝起きで不細工な私に"お早うございます"と微笑みながら挨拶をしてくれる。タイミングを見計らったかのように菊さんはいつも私が布団を押し入れにしまうと同時に庭の掃き掃除を終え、台所へと急ぐ。菊さんに続いて私が台所へと入れば、菊さん手料理の良い匂いがして、私は今度は居間へと急ぎ、菊さんが料理を運んできてくれるのを待つ。今か今かと待ち構えていると、菊さんはいつも目をキラキラさせる私を微笑しながら料理を持ってきてくれる。食卓に並ぶ典型的な日本風の朝ごはんを見ていつも思う、こんな良い男性は他にいない、と。

「本当に菊さんは料理が上手ですね」
「あらあら、褒めても何も出ませんよ」
「菊さんの手料理が毎日食べれるなら何もいりませんー」
「それは嬉しいですね」

 着物の袖を口に当てながら笑う姿はまるで女性で、思わず私が菊さんの美しさに見惚れてしまうのも今では日常と化している。
 菊さんが作ってくれた朝ご飯を全て米粒一つ残さずたいらげると、菊さんは嬉しそうに"お粗末様でした"と言ってお茶碗などを台所に運んでいった。少し汚れた食卓を拭く為に台拭きと一緒に居間へと戻ってきた。いつもなら一緒に菊さんと一緒に台所で洗い物をするのだが、今日は何だかそんな気になれず、台を拭く菊さんにちょいちょいと手招きをして、自分の方に来るようにした。
 何ですかと不思議そうにする菊さんの手を自分の方に引き、抱きしめてそのままごろんと横になれば、案の定菊さんは"なまえさん!"と少し怒った。

「駄目ですよなまえさん、今日は掃除しなければいけない部屋が沢山あるんですから」
「そんな気分じゃないんですもん、今日はこうしてましょうよ菊さん」
「駄目です、ほらなまえさん、」
「だってもっと菊さんとこうしてたいんですもん」

 私がそう駄々をこねるように言えば、菊さんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに眉毛をハの字に曲げて、小さく溜息をついた。だっていつも二人でゆっくりなんて出来ないから、たまにはこうしてたい。そう思ったからこそ、勇気を出して菊さんの手を自分の方へと引っ張ったのだ。
 大人しくなった菊さんは諦めがついたのか、私の腕の中から逃げ出し、自分から私の背中に両腕を回してきた。菊さんは久しぶりのゆったりとした時間だからか、顔もやんわりとしており、終始微笑みながら私の髪を撫でた。そんな綺麗な菊さんに思わず私は口を開いた。

「菊さんは本当に綺麗ですね」
「そんな、私にとってはなまえさんが一番綺麗ですよ」

 てっきりいつものように「男で綺麗と言われても嬉しくはありませんよ」、なんて怒るかと思ってたのに、あっさりと綺麗な笑みで私が簡単に嬉しくなってしまう返事を返してきたので、改めて菊さんは本当に良い男性だと思った。



20110717/金魚草
title by √A
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