「あ、しまった」

 携帯の充電が切れたと同時に俺はそう零した。ただ今一時半。俺の乗っていたバスはエンストしたか何かで動いていない。待ち合わせ時間は一時。つまり、俺は彼女であるなまえとの待ち合わせに遅刻している。
 バスが急に止まったからおかしいなと思い、運転手の方を見てみれば見るからに「しまった」という顔をしていて、それはバスがもう動かないことを報せていた。まさかバスが止まると思ってなかった俺がしまったと言いたくなったが、それよりもまずなまえに電話しないと、と携帯を開けば冒頭にあるように充電が切れ、使えなくなっていた。

 生憎俺は一向に動く気配の無いバスの中で呑気に待って彼女を困らせたい程Sじゃない。すいません、と運転手さんにある程度の金を出してバスを飛び出し、なまえの待つ喫茶店へと急ぐ。部活以外でこんなに必死に走んの初めてじゃねえかって思う位本気で走った。必死に地を蹴ってなまえとの待ち合わせ場所の喫茶店に入れば、カランと綺麗なベルの音が鳴った。何名様だと聞いて来る店員を無視して店内を見渡せばなまえの姿は無かった。少し嫌そうな顔をした店員にすいません、とだけ言い店を出ようとすれば聞き慣れた声が自分の名前を呼ぶのが聞こえた。

「バネさん!」

 店から出ようと握っていたドアノブから手を離して振り向けば、笑顔でこっちこっちと俺を手招くなまえが見えて、俺は急いでそちらへ駆けつけた。

「遅れて悪ィ!」
「ううん、大丈夫。それよりもバネさん大丈夫だった?」
「へ、何で何かあったって」
「だってバネさん、いつも遅刻する時は連絡してくれるし、ダビデに電話したらこっち来るからってさっき別れたって言ってたし。それにバネさん、今まで来なかった事なんて一度も無いでしょう」

 笑顔で「だから待ってた!」とヘラヘラ笑いながら言うなまえに何だかどうしようも無い気持ちが込み上げてきて、思わずぎゅっと抱き締めたらなまえは今度は声に出して笑い、来てくれてありがとう、と言ってきた。馬鹿野郎、礼を言うのはこっちだ。先程まで嫌な顔をしていた店員をチラリと見れば更に迷惑そうな顔をしていたが、んなのどうでもいい。取敢えずこの目の前の彼女が愛しくてたまらないんで注文をもう少し後にしてくれ。



20100413/ヒーローたるもの、
移動手段に躊躇うべからず
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