この前久しぶりに弦ちゃん、もとい真田に会った。真田はいつの間にあんなに大きくなってたんだろうか。小さい頃、私に泣きながらすりよってきた"弦ちゃん"はいなくなっていて、この前会った真田はどこか大人の雰囲気が漂っており、何だか別人のようで姉のようなポジションに位置していた私は悲しくなった。中学に入って真田と違う学校に行くようになってから私達は話さなくなった。そして私は話さなくなったと同時に今までのように真田を"弦ちゃん"と呼ばなくなった。


この間久しぶりになまえに会った。なまえは俺より三つ年上で昔はよく世話になった記憶がある。久しぶりに会ったなまえはもう既に高校生になっていて、俺とは全く違う世界にいて又小さい頃のようになまえの存在が遠くに感じ、眩暈がした。この前会った時なまえは俺のことを"真田"と呼んだ。今度は眩暈と同時に吐き気がした。


私の中学時代の後輩によれば、どうやら真田は意外に女生徒に人気があるらしい。その後輩もこの間テニス部の練習を見に行ったらしいが真田を格好いいと言っていた。そういえば長年一緒にいるにも関わらず私は真田がテニスをしている姿を見たことが無い。何度か真田のお母さんにも大会に誘われてきたが一度も行った事がない、それを今更ながら後悔した。せめて一度でも見ていれば真田の成長の過程を見れていたかもしれないのに、そう思い更に後悔。また真田、いや願わくば弦ちゃんに会いたいと思った。


久しぶりになまえに会ったことを幸村に言えば、幸村はへえと嫌味たらしく微笑んだ。幸村によれば幸村は既に何度かなまえと会っていたらしい。なまえと幸村がそこまで仲良かった記憶はないが、何故だか無性に苛立った。それから幸村は何を思ったのか"そういえばなまえは一度も僕達のテニスをしてる姿を見たことがないね"、そう言って部室から出て行った。


前の日に受信した精市のメールには彼の学校に来るようにと書いてあった。精市が〜するようにと言う時はお願いでは無く命令だという事は前々から承知している。だから今私は今立海大附属中学校の校門前で精市を待っている。精市の命令に従ってなのか、はたまた立海に来ればあわよくば真田の顔を見れる、そんな下心を持って来たのかは正直自分でも分からなくなっている。約束の時間になると精市は校門前に姿を現して、ニコリと笑うと私の手を引っ張ってテニスコートへと向かっていった。


幸村が言ったことは悲しくも図星で確かになまえは俺達のテニスをする姿を見た事がない。いつもより重い足取りでテニスコートに向かい、相変わらず遅刻の赤也を叱っていれば、幸村が来たのだろう、女生徒の声援が飛び交った。遅刻してきた幸村に事情を聞こうと振り向けば、幸村の隣にはこの前久しぶりに会ったなまえがいた。そして不覚にもなまえの手を取る幸村を羨ましく思った。


テニスコートに向かう、という時点で嫌な予感がした。立海大附属中学校のテニス部、それは正に真田の所属するテニス部だった。先日まで真田に会いたいと思ってた筈なのに、今は会うのが怖くなってしまい、精市にやっぱり帰ると言えば精市はまたニコリと微笑んできた。テニスコートに着けば案の定真田がおり、真田は想像していた通り驚いた顔をして私を見ていた。精市に背中を押され、バランスが若干崩れていながらも真田の前に立てば改めて身長差を実感した。真田、と名前を呼べば真田は帽子を外した。気まずい空気の中最初に口を開いたのは真田だった。


真田、そう呼ばれ再びこの間のように眩暈がした。どこからか込み上げる怒りのような不思議な感情と一緒に俺は一度に沢山の質問をなまえに浴びせた。何故来たのか、何故幸村と一緒なのか、何故今俺と話しているのか、何を幸村と楽しそうに話していたのか。


何故もう昔のように"弦ちゃん"と呼んではくれないのか、そう聞いてきた真田は相変わらず無表情で、真っ直ぐすぎる真田の視線に私は思わず目をそらした。先程から真田の質問を聞いている限り、私の自惚れにしか過ぎないだろうが、どこか精市に嫉妬しているようにも聞こえた。私が答えられなかったからか真田は私に迷惑をかけたと思い込み、帽子を被りながらすまないと謝ってきた。


部活の時間だという事を危うく忘れそうであった。俺の質問に答えないなまえに一言謝り、もう既に何人かがラリーを始めているテニスコートへと入ろうとすれば、懐かしい名前で呼ばれた。


"弦ちゃん!"、小さい頃のようにそう呼べば、真田はゆっくりながらも私の方を振り向いた。部活も始まっており、これ以上真田には迷惑をかけられない、しかし何を言えば分からない。そんな混乱状態の私の頭を真田は一撫でしてきた。


久しぶりに弦ちゃんと呼ばれ、どこか安心感を覚えた。恐らく何を言えば良いのか分からなくなっているなまえの頭を撫で、恥ずかしながらも俺のテニスをする様子を見ていてほしい、そういつもより断然小さい声で言えば、なまえは柔らかく笑い、"頑張ってね、弦ちゃん"と言った。ああ、今日はいつもより暑いな。



20100305/地球を眺める愛し方
title by 舌
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