目の前におるなまえを見てふと思った。俺の知らん内にえらい大きなったなあ、と。外見は勿論、昔と比べもんにならん位にかいらしくなってしもて、内面もこの前久しぶりに帰ってきたと思ったらえらいしおらしくなっとって、俺も金造も心底驚いた。でも今さっき金造と喧嘩したらしく、ムスッと顔をして俺の部屋に入ってきて、何や昔の面影もまだ残っとって思わず頬が緩んでしまった。

「…柔兄、笑わんといてよ」
「堪忍な、金造もなまえも昔と変わらんな思て」
「今回は違うねん、金造が最初に喧嘩吹っかけてきてん!」
「何にしろ顔を傷もんにされんで良かったなあ」
「傷もんにしてたら息の根止めてるわ!」
「せやけど喧嘩買ったなまえも悪いからな」
「…」

 すぐにぷうっと頬を膨らまして拗ねる所なんかは昔と変わらんみたいで何や安心した。相変わらず頬を膨らませたままなまえは顎を机に置くと、一つ大きく溜息を吐いた。

「どないしたん、溜息なっとついて」
「…柔兄が私の兄ちゃんやったら良かったんに、」
「そら又えらい唐突やなあ」

 "かて柔兄は優しいし、良え兄ちゃんやん"、なまえはそれからしばらくは何で俺が兄ちゃんやったら良えのか話した。優しいのは認める、そら相手がなまえなんやさかい、優しくするに決まってる。良え兄ちゃんの振りすんのもおかしな所見せたないからやし。ほうか、なまえは鈍いんやな、せやから俺がなまえにだけちゃう態度取ってんのに気付かへんのやな。俺がほうか、と一人で自己解決しとると、なまえが一言"それに私が妹やったら、もっと構ってくれるやろ"と零した。

「そらちゃうわ」
「、へ?」
「俺はなまえに妹になって欲しないしな」
「、何で?」
「そらなまえが妹やったら毎日楽しいやろなあ。妹のなまえかあ、えらいかいらしくて甘やかしてしまうかも分からへんしなあ」
「せやったら何で妹になって欲しないん?」

 なまえは片眉を下げて頭の上にハテナマークを浮かべて俺にそう聞いた。そんななまえの空いた両手を俺の両手で握ったった。するとなまえはみるみる内に林檎みたいに赤なって。俺が更に片手をなまえの片頬に添えるとなまえの顔は更に赤なって、そして熱なった。

「かて妹やったら結婚出来へんやん。せやから俺は反対やで」

 俺が笑顔でそう言い終えるとなまえは目を大きく見開いて、まさかもっと赤なるとは思ってへんかった顔を更に赤らめて、驚いた事にぼろぼろと静かに涙を零し始めた。笑顔だった俺の顔も驚きとどこからか湧き出てくる罪悪感ですっかり眉が下がった悲しい顔になってしもた。嗚咽もせんと静かにぼろぼろ泣くなまえにどうしたんか聞いたら「嬉し泣きやねん、」ってぐっちゃぐちゃの顔しながらも笑顔でそう言ってくれはって、年上の俺が年下のこのおなごの子に唖然としてしもた。ちょい待ってぇや、俺なまえがこんなかいらしかったなんて知らんで。



20110610/北極星ともぐらのはなし
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