私が今ルームシェアをしている人は残念な事に干物女ならぬ干物男である。
 最初に断っておくが、私と彼は"ルームシェアをしている会社の同僚"、という仲であるだけで、それ以上の関係を持っている訳では無い。彼は一応会社では一目置かれており、仕事は勿論、外見も性格も女性、そして男性社員にもウケが良い。色々な人から飲みに誘われたり(最近は女性社員から告白される事も増えているらしい)するのだが、彼はいつも良い具合に言い訳を作り上げては断っている。「今日は久しぶりに一人で休みてえんだ、悪ィな」なんて、ただ面倒臭いだけなのが見え見えなのに、女性社員たちは今日も黄色い声を上げる。
 自分の仕事を終わらせ、家のドアを開けば、そこにはいつもと同じ光景。靴を脱いでいると、キッドがいつものジャージ姿で玄関まで歩いてきた。

「ただいまー」
「おう、遅かったじゃねえか」
「溜まってた書類、全部片してきた」
「あー、ご苦労さん」

 ヒールを脱いで家に上がれば予想していた通り散乱するビール缶。片付けろよと注意しようとキッドの方を見れば、いつも家でのみ着ける黒縁眼鏡をかけていた。眼鏡をかけている自分は彼曰く"格好良くない"らしく、会社ではコンタクトにしているが、家ではこうして眼鏡をかけている。おまけに前髪はクリップで挟んでるときた。夏だし暑いから仕方ないか、そう思いながら汚い机を片付けていれば、床に寝転びながら私をじぃっと見つめてくるキッドと目が合った。
 キッドが飲み干した缶ビールを台所にあるごみ箱に捨て、自分が飲む為の缶ビールを取ろうと冷蔵庫を開けた。リビングの方から「俺も」なんて先程まで飲みまくってた奴の声が聞こえたが、無視して自分の分のビールだけ取り出し、リビングに入ればジャージの上からお腹を掻くキッドとまた目が合った。

「何、どうした」
「いや、今日エースさんと話しててよ、」
「へえ、キッドとエースさんがねえ」
「あの人、最近彼女出来たの知ってんだろ」
「うん、」
「この前から彼女の事でノロケられててよ。彼女といると心地良いんだとよ」

 ずり落ちてくる、少し大きい黒縁眼鏡を指で持ち上げながら、キッドはそう言った。彼は干物女ならぬ干物男な訳で色恋沙汰には興味は持たない。今回もどうせ"ノロけられるのがうぜえ"、とか"彼女持って何が楽しいんだかな"とか、いつもみたいに愚痴るんだろう、そう思ってビールを飲み干せば、相変わらず私の方をじっと見てくるキッドが口を開いた。

「それで思ったんだけどよォ」
「んー?」
「よく考えてみたら俺もお前といると心地良いんだよなァ」

 キッドが発した言葉に驚愕し、思わず飲んでいたビールを口から噴出してしまう。本人は「きったねェな!」なんて言いながら(頭ボサボサでボロボロなジャージを着てお尻を掻く人にだけは言われたくない)近くにあったオルを私に渡してきた。私はと言えば、噴出したビールよりもキッドの言った事が信じられなくて、思わず動揺してしまう。

「いやいや、何言ってるのキッド」
「んー、お前の事実は好きかもしんねェなって話。まあ、そういうのよく分かんねェけど」
「え、いや、」
「トラファルガーなんかはそういうのに詳しいんだろうな」

 キッドは前髪を留めてたクリップを取り、大きく伸びをした。キッドは"じゃ、俺寝るわ"と欠伸を一つすると、自室へと向かって行った。今心臓が驚く位に早く波打っていて、顔も恐らく真っ赤であろう私の淡い期待などきっと彼は知らない。



20110514/カラフルカクテル
title by CELESTE
干物キッド(イラスト)
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