嫌悪と嫉妬と愛情と

爆豪 side

目を開けると真っ白い天井が視界を埋め尽くしていた。ここは何処か、なんで自分が横たわっているのか、なんてのをぼんやりとした頭で考えていると、白で埋め尽くされていた視界にオールマイトのツラが現れた。

「目、覚めたかい?」

その声でハッと我に帰り勢いよく体を起こした。
…そうだ、演習試験でオールマイトと…。
演習試験の事を思い出すと、クソナードのツラまで頭を過ってきやがって無性に苛立ちを覚える。オールマイトがうだうだと何か言ってやがったが、返事をする気にもなれずベッドから降りて保健室から出た。

更衣室で制服に着替えて教室へと向かえば、誰も居ないと思っていた教室内からは話し声が聞こえた。よく聞いてみりゃ、その声の種類は二つで、一つは今最も聴きたくねぇ耳障りな声で、もう一つは今最も聴きてェ心地の良い声だった。嫌悪と愛好、対立する二つの感情が同居する事に不快感を覚えた。

そんな胸糞悪い空間を壊しちまいたくて仕方ねぇ気持ちを抑えて、何の話をしてんのか聞いてやろうと扉のすぐ傍で耳を澄ませて教室内を盗み見た。そして、視界に飛び込んできた光景に息を呑んだ。

…デクが菜乃の額に口付けをする寸前だった。

鼓動が速く脈打つのを感じると同時に、息苦しさを感じ始めた。
嫌悪感や嫉妬心、憎悪なんかの黒い感情が自分を支配し始めるのがハッキリと分かる。ギリッ_と強く奥歯を噛み締め、湧き上がる感情が口から出てこようとするのを堪えた。そうやって、己を落ち着けている間に、デクが一人教室から慌てるように出て行くのが視界に入った。

その後ろ姿を見届けて、溜まった苛立ちを取り去るように深く息を吐いたあと、再び教室内を覗け見れば、菜乃は自分の席に座りスマホを触っていやがった。
…アイツが待っているのは俺だ。そんなのは分かりきっている事だ。それなのに何をこんなに苛立つ必要があんだよ…!クソデクなんか、相手じゃねェ…!

そんな事を思いながら、気づけば俺は教室にズカズカと入って目を丸くして俺を見る菜乃の腕を強く掴んでいた。

『勝己…?』
「……れンだ。」

低く掠れた声で途切れて聞こえた自分の声は“俺のモンだ”、と言った筈だった。自分の耳でもハッキリと聞き取れてねぇその言葉を、当たり前に菜乃は『え?』と聞き返した。
だが俺は唇に自分の唇を押し付けて塞いだ。

小さな唇に噛み付くようにキスをすれば、菜乃は俺の身体を押し返そうとしてきやがるが、そんな事気にも留めず、自分の腕の中から逃がさねぇように、この女の後頭部と腰に回した腕の力を強めた。

唇を重ねた時に少し戸惑うのも、
近くで香る優しい甘ェ匂いも、
制服の下にある滑らかな肌の感触も、
そこに指を滑らせた時に擽ったがる反応も、
俺だけが知ってるモンだと…コイツの反応やコイツ自身全てが俺のモンだと自分に言い聞かせるみてぇに、その身を腕の中に閉じ込めた。

荒々しいキスをしながら腰に回していた腕をその身の上で滑らせ、制服のブラウスのボタンに手をかけた。上から幾つかのボタンを外して肩の部分をはだけさせると白い肩が露わになる。そこには数日前に俺が付け直した赤い痕跡が一つ、痛々しいくらいくっきりと残っていた。

下着の肩紐をずらして、上書きするようにその痕に唇を乗せ強く吸い付いた。

『…っ、勝己…、ここ、学校…。』

菜乃の涙で濡れたような潤いを含む声が降ってきて我に返った。

後頭部を押さえつけていた筈の手は、無意識のうちにブラウスの裾側から服の中に侵入しちまっていて、その滑らかな肌を撫でていた。

苛立っちまうとすぐに理性って奴が仕事を放棄しちまう。そこが己の弱さだと分かっちゃいた。しかも更に情けねぇ事に、この女の泣きそうなツラや声には負けちまう自分がいた。

ダッセェ…。

自分を嘲笑しながら菜乃の身体を離してやって乱れた服を軽く整えてやった。まともにツラも見れず、「…帰ンぞ。」と声をかけると菜乃はボタンが開いたままのブラウスの胸元を掴んで、『あのさ…!』と意を決したような面持ちで口を開いた。

「………………は、?」

菜乃の口から出た言葉に、俺は情けねぇ程に間抜けな声を出しちまった。

−−−−

教室で二人きりだった俺らは、あれから帰路を辿り、現在別の室内に二人きりだった。別の室内とは、菜乃が指定した場所…俺の部屋だった。
教室内で菜乃がツラを赤くして何を言うのかと思えば、『今日は勝己の部屋に行ってもいい?』と言ってきやがった。

そして部屋について以前この家でババァと散々見たであろうアルバムを見せてくれと言い出した。菜乃は俺から受け取ったアルバムのあるページを開いて一枚の写真を指差した。

『ねぇ、緑谷くんとは幼馴染だって聞いてたし、わたしも含めて三人で笑ってる写真もあるのに、どうして今仲が悪いの?』

そんなくだらねぇ事を聞いてきた。「ワケ分かんねぇけど気味が悪くて癪に障るモンってあんだろ。」と適当に答えてやれば、『そういうもの?』と首を傾げて見せた。

菜乃が視線を戻した先にあるアルバムを背後から腕を伸ばして取り上げると『あ…、』と惜しむような声を漏らした。

「この間散々ババァと見てンだからアルバムはもういいだろーが。」

俺の言葉に小さな声で『うん…。』と返事をしたのを聞き届けて、ベッドの上に落としていた腰を持ち上げ菜乃が座るすぐ隣の床に腰を落とした。

俺がドスっと隣に腰を落とすと、菜乃は身体を三角に折り曲げ静かに話を始めた。

『あのね、その…やっぱり最後までシたいなって……。』
「あ?誰が、何をがねぇと分かんねぇわ。」
『…っ、勝己との、えっちを…、デス…。』

言いてぇ事は聞かずとも分かっちゃいた。だが、コイツの口からちゃんと言わせたかった。だから今俺は、菜乃に恥じらいながらそのセリフを言わせた事に満足していた。

『怖さとかがないワケじゃないけど、一度あの感覚を身体が知ってるからか、も…物足りないと言いますか…。』
「あの感覚ってなんだよ、ハッキリ言えや。」
『き、気持ちイイって感覚……!ねぇ、さっきからわたしが言いたい事分かってて聞いてるでしょ…!』

ガバッと勢いよく上げた菜乃のツラは耳まで真っ赤に染まってやがった。菜乃の言葉に「さァな。」と返してやって、やっと姿を見せた唇に自分のを重ねた。

菜乃の後頭部に右手を置いて、逃がさねェように捕らえると何度も味わうみてぇに角度を変えながら唇を合わせた。
互いの唇を合わせながら、時折舌を出して唇を舐めてやると、俺の胸元のシャツをギュッと掴み皺を寄せるのが求められてるみてぇで堪んなくなる。

何度目かも分かんなくなった口づけを止めると、残念そうな表情をする菜乃。

「ちゃんとシてやっから。」

耳の上側を軽く噛みながらそう言った後、身体を持ち上げベッドの上に落とし組み敷いた。

「止めンなら今のうちだかんな。」と今更こんな状況で止められる筈もねぇのに、そんな確認をした。菜乃は俺の言葉に『大丈夫…。』と言って両手を伸ばして俺の顔を優しく包み込んだ。

‥抑えられる筈がねぇ。
俺の部屋に菜乃が居て、しかも現在両親は不在で一つ屋根の下に二人きり。あんな事まで言われて何も起こさねぇ方がどうかしてる。

俺が与える快楽の中で息の仕方も忘れるくれぇに溺れさせてやらァッ…。

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