再会と初対面

菜乃 side

『ん、んーーー…』

部屋の窓から差し込む朝日と鳥の鳴き声で目を覚ました私はベッドの上で身体を起こし伸びをした。置き時計で時間を確認すれば針は6時半を指していた。目覚ましのアラームなしに起きるなんて珍しい。枕元に置いてあるスマホのアラームが自分の仕事をする前にソレを操作してアラームを削除した。
わたしは布団から出て、洗面所へと向かい支度を始めることにした。

カッターシャツに袖を通し、赤色のネクタイをつける。パジャマのズボンを脱いで緑色のスカートに履き替えた。黒色の靴下を履き、最後にグレーのブレザーを羽織って完成。

4月もまだ上旬_
木にはまだピンク色をまばらに残している今日、わたしは新しい制服に袖を通したのだ。

鏡の前に立ち、自分の姿を確認した後、スマホでカメラを起動して自分の姿をメモリーに収めた。そしてその写真をメールに添付して送信ボタンを押した。

…今日からわたしは雄英生だ。

−−−−

コンコン_

学校へ着き、まずは職員室へと向かった。ノックをして扉を開け、『失礼します。』と言ったわたしの声とほぼ同時に「失礼します!!」と勢い良く声が聞こえた。職員室の扉のすぐ近くでピシッと頭を下げている男子生徒は、凄い速さで頭を上げくるりと体の向きを180度回した。

その勢いのままに進んだものだから、わたしは職員室の扉のすぐ近くにいた男子生徒とぶつかりそうになってしまった。
ぶつかりそうになった青年はわたしに気づいて「おっ、と…」と声を漏らした。青年は眼鏡をかけていて着崩されていない制服にキビキビとした動きをしていた。

「これは申し訳ない!危うくぶつかってしまう所でした。」
『あ、いえ…。わたしこそごめんなさい。』

わたしはその青年に勢い良く頭を下げた。
…つい、先程の彼のキビキビとした動きに吊られてしまった…。何してるの…。

そんなことを心の中で呟いていると、「お、君か。転入生ってのは。」と別の男性の声が聞こえた。

その声に顔を上げるが、姿は見えない。
あれ、今確かに声が…。

「咲良菜乃ってキミだろ。」

やっぱり声が聞こえる。声のする方に視線を向ければ、なんと声の主は床に転がっていた。芋虫のように寝袋に包まれて…。

『は、い…?』とその寝袋男の質問に答えると同時にこの人は何者だろうか?という疑問が混ざって、つい語尾を上げて疑問符をつけてしまった。

のそりと寝袋のまま起き上がると、立って動き回れるように手足が付いてるのだから面白い。寝たいのか動きたいのかどっちなんだろう。

怠惰。そんな言葉がよく合う人だと思った。

「キミが入る1-Aの担任の相澤だ。で、コイツが委員長の飯田。飯田、今日から転入してきた咲良だ。ちょうど良いからクラスまで連れてってやってくれ。」
『転入にあたって諸々の説明は…?』
「特にこれと言ってないな。校内の案内ならクラスの奴らにでも頼んでくれ。あ、飯田…ついでにホームルーム始めといてくれ。俺もすぐに行く。」

な、なんて適当なガイダンス…!わたしが口を開けていると委員長だという飯田くんは「分かりました!!」と、わたしを教室へと連れて行く気満々だった。

わたしは担任の言う通りに飯田くんにクラスまで案内してもらうことにした。

『飯田くん…だっけ?わたしは咲良菜乃。よろしくね。』
「俺は飯田天哉だ。こちらこそよろしく。」
『委員長なんだね?』
「あぁ!…と言っても昨日着任したばかりだがな。」

飯田くんは「ハハ…」と照れくさそうに笑った。

ふと、朝送ったメールの事を思い出して、歩きながらスマホを開いた。…メールの返信を確認するためだ。だが返信は無し。返って来ないことは分かっていたから特に"新着メールなし"の文字を見ても悲しくはなかった。しかしまぁ…見たかどうかの確認ができないなんて、メールはもどかしい。メッセージアプリの連絡先を知らないのだから仕方ないか。

「咲良くん、歩きスマホは危ないぞ。」
『ごめんなさい。返信が来てるか確認したいメールがあって。来てなかったからしまうね。』
「返信の有無の確認なのかい?内容ではなく?」
『…うん、もう何年も返事はないから、空メールが来るだけでもいいから望んでるの。』
「それはどういう意味だい?」

首を傾げる飯田くんに『さぁ、どういう意味だろうね?』と笑いかけた。



教室の前へと着けば、飯田くんは「先生がいらっしゃる前に名前の紹介だけ済ませておこう。」と言った。『わかった』と返事をすれば、彼は大きな扉を開いて中に入っていった。そんな彼に続いてわたしも教室内に足を踏み入れた。

「みんなホームルームの前に話がある。席に着いてくれ!」
「わぁー!飯田!誰その子!」
「芦戸くん、今から説明をするから…」
「お!もしかして転入生??」
「か、上鳴くんまで…!俺の話を…!」
「あれ?あの子どこかで……なんか見覚えがあるような…えーと(ブツブツ)」
「朝からブツブツるせぇンだよ!クソナード!!!」

…なんかわたし、とんでもないクラスに来た…?
隣に立つ飯田くんを見ると、「委員長たる者、皆を纏められなくてどうする…!」と悔しそうに嘆いていた。

数秒間の賑わいの後、クラス内は静かになり、各々席に着いていた。教壇に立っていた飯田くんはわたしに掌の先を向けてクラス内に向かって口を開いた。

「ホームルームの前に…今日から俺たちと共にヒーローを目指す仲間が増えた。咲良菜乃くんだ。」

ガガッ_!ガタンッ_

飯田くんがわたしの名前を口にしてほんの数秒後に、椅子が床を強く擦り、倒れたような鈍い音がした。その音に意識も視線も奪われ、わたしの口から『初めまして。』という言葉が音を出すことは無かった。

皆が着席してる中、一人立ち上がった為にその人物は一際目立っていた。わたしを含めクラス中の誰もが彼に注目している。金色のツンツンとした頭に、わたしを睨みつけるような視線。この人は新しい仲間を歓迎する目をしていない。

「バクゴウくん?どうかしたのかい?」と飯田くんが声をかけるが、ツンツン頭の彼は飯田くんの言葉に返事もせずズカズカと歩いてきて、わたしの前に立った。そして思いっきり目を吊り上げわたしのネクタイを掴んで引き寄せた。

え…?

「なんでてめェがここに居ンだよ。クソ菜乃。」
「爆豪くん!初対面の人に対してその態度は改めたまえ!」
「ダァってろやクソメガネェ…!初対面じゃねンだよ!!」
「そうは言っても…彼女はかなり驚いているように見えるが…。」
「あぁ!?」
『あの…なぜと言われても…?そもそもあなたはどちら様?』
「は……?」

わたしの言葉にツンツン頭の彼は、わたしのネクタイを掴む手の力を緩めた。だけどそれは一瞬で、また強く掴んで先ほどと同じように目を吊り上げた。

「昔からアホだとは思ってたがここまでとはなァッ!?初めましてみてぇに喋りやがって…!テメェの記憶力はゴミ以下か!即刻その頭カチ割ってでも思い出させてやらァッ…!」
『え…えぇ!?…ちょっと…!』

目の前の彼はネクタイを掴んでない方の手からバチバチと火花のようなものを散らしている。
まって…なに、何なの!?

_この人、だれ??


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