体育祭B

菜乃 side

雄英体育祭最終種目は1:1でのバトル形式だった。騎馬戦上位4チーム、総勢12名によるトーナメントで優勝を決める戦いのようだ。

わたしは今その二回戦目を迎え、同じA組である常闇くんとステージ上で向かい合っていた。一戦目の青山くんとの対戦はセメントで出来たステージの端から大量の根を生やし、ステージ一面に根を張り巡らせた。お腹から眩いレーザー光線を放つ青山くんは私の仕掛けた根に足を引っ掛け体のバランスを崩した。その隙に根を操り彼の体を拘束させてもらった。身動きが取れず試合続行不能という事でわたしは一つ目の勝ち星をあげたのだ。

常闇くん…。
一戦目の百ちゃんとの戦いを見る限りダークシャドウを使って先制を仕掛けてきそうだ。このセメントで出来たステージは正直わたしには分が悪い。ステージを味方にしようと思うと、どうしても先ほどのように根や草なんかをステージ横から這わして埋め尽くす必要があった。何か良い策はないか…。
プレゼントマイクの人物紹介を聞き流しながら辺りを見渡していると、ステージの四隅でメラメラと燃えている炎が目に入った。この会場を盛り上げる為の雰囲気作りで設置されたものだろう。わたしは大地達の声に耳を澄ませ思考を巡らせた。

…あれなら使えるかも。

「スタート!!」

プレゼントマイクの口から試合開始の合図が発せられると同時に、思った通り常闇くんはダークシャドウを使って先制を仕掛けて来た。なんとかダークシャドウの動きをかわすが、すぐに次の攻撃が迫ってくる。

もうちょっと、時間稼がないと…!

「悪いが、ステージをお前のモノにされる前に片を付けさせてもらうぞ。」
『…っ、ううん、もう遅いかも…!』

わたしがそう言うと、わたしに突っ込んできていたダークシャドウは突然小さくなって攻撃の動きを止めた。それもその筈、ステージの周りは火に囲まれていたのだ。この惨状を作り上げたのはわたしだ。四隅で燃えていた炎の中に根を伸ばし火を燃え移らせ、四つの炎を根や草で繋げ火事を起こしたのだ。この燃え盛る炎の中ではダークシャドウは力を発揮できまいと考えたのだ。更に追い討ちをかけるようにステージ上にも根を数本伸ばし常闇くんの足を捕らえた。根から脱出を試みようとする彼の体にどんどん根を巻き付けていけば、脱出不可能だと悟ったのか、抵抗を辞めた。頼みの綱のダークシャドウも炎の所為で猛威をふるっていない。
常闇くんは、さっきとは打って変わって気弱になったダークシャドウを自身の体に収め「俺の負けだ。」と降参をした。ミッドナイトの「常闇くん降参!準決勝進出、咲良さん!」というコールが掛かると、ステージ外で燃え盛っていた炎は、教師やロボによって早急に消火された。
わたしは、常闇くんがあの段階で降参してくれて良かった、とホッとしていた。出来ればこれ以上は燃やしたくはなかったのだ。わたしが常闇くんに感謝の意を込めて頭を下げると、彼はわたしを見ていつものように静かに口を開いた。

「何故、ダークシャドウの弱点を知っていたんだ?」

常闇くんが疑問に思うのは無理もない。だってわたしは彼の口からソレを聞かされていないもの。わたしは…彼の秘密を大地から聞いたのだ。正確に言えば、常闇くんが騎馬戦チーム決めの時に緑谷くんにそう話していたというのをこの対戦の直前に大地が教えてくれたのだ。大地の情報網はわたしが聞き耳を立てる事などせずとも情報を仕入れてくれていたりするから結構便利だったりする。

『植物達はわたしの耳も同然ってコト!秘密の話はコンクリートに囲まれた部屋でする事をオススメするよ。』

わたしは彼にそう言ってステージを降りた。
…さぁ、これで準決勝に進出だ。

…この後に行われた爆豪VS切島戦で、「勝者、爆豪くん!」というミッドナイトの声を聞いて、観覧席に座っていたわたしに声をかけたのは三奈ちゃんと梅雨ちゃんだった。

「うわ、咲良の次の相手爆豪じゃん…。」
「菜乃ちゃん頑張って。」

がんばるね、と返すと三奈ちゃんは目を丸くして口を開いた。

「なんか楽しそう?咲良ってば意外に戦闘狂タイプ?」
『わたしそんな顔してる…?そんな事ないけど、ここまで来たら負けたくないなとは思ってる。』
「うん、笑ってた。…そっか!唯一の優勝候補に残ってる女子だもん、応援してる!」
『ありがとう。』

勝己との対戦は正直怖い。ここまで圧倒的な強さを見せつけられて来ているんだから当然だ。だけど、わたしは貴方に挑戦してみたい。

この時、既にわたしの中では次の対戦に対する恐怖や不安よりも楽しみが勝っていた。

−−−−

『勝己、わたし本気で行くね。』
「……たりめぇだろ。つまんねぇ戦いしたらてめぇはゴミ以下だ。」
『…わたしが勝ったらそのゴミっていうの辞めてくれるかな!?』
「んじゃ一生ゴミ女だろーなァ?」

一応交渉が成立したところで、試合開始のゴングが鳴った。

わたしは初戦と同じようにステージ上に根を張り巡らした。初戦よりも素早くその作業を行い、瞬時にステージ上を茶色に染め上げた。しかし勝己は爆破の個性を地面に撃ちまくって根を燃やしていってしまう。

「戦い方が単純なんだよ…!」
『っ、それは決着がついてから言ってよね…!』

わたしがそう返すと勝己は後ろ手で爆破を起こして上へと飛んだ。根を伸ばして彼の足を掴んで投げ飛ばしあわよくば場外へ…と考えていたが、勝己は後方下から襲ってくる根にさえも反応して爆破してしまう。

そう簡単にはいかないか…。

だけど、わたしの本当の狙いはそこじゃない。わたしが待ち望んでいるのは、勝己がわたしに向かって降りて来て爆破を撃ち出すそのタイミング…まさしく今だ。

「死ねェエエ!」

両手を前に持ってくるこの時を待ってた。根を伸ばして彼の左足に巻き付け強く後方へと引いて体勢を崩した。間一髪、彼の手で爆破が起こる前に体勢を崩せた事で、彼の攻撃はわたしの肩を掠めるだけで済んだ。"だけで済んだ"と言っても重傷を免れただけで普通に痛いし熱い。一瞬でも体勢を崩すのが遅れていたらと思うと恐ろしい…。彼はわたしを本当に殺すつもりだったか?と思ってしまう程だ。

「な、っンだコレ…!!体が麻痺してきやがる…!」

勝己のそんな声が聞こえてわたしは彼を視界に入れた。彼はその場に立ち尽くして両掌をぎこちなく動かしながらわたしを睨みつけた。彼をこんな状態にさせているのは、暑さのせいでも、疲れでもない。他でもないわたしだ。

…ステージ横に一輪の花を咲かせた。その花の持つ毒を彼の体内に流し込んだのだ。先ほど左足首に巻き付けた根の先端を彼の皮膚に刺すことによって毒を流し込む事に成功した。…毒と言っても強い毒性はない。体のふらつきや吐き気、ちょっとした痺れが一時的に起こる程度だ。
実は想像した花を咲かせる事は、わたしが一番得意としている事だった。そしてその成分を根に伝わせて相手の体内に直接流し込むと、驚くほど早く症状が現れるのだ。飲み薬よりも点滴の方が早く効くみたいなものだ。

"開花の贈り物"ブルーム・ギフト


そんな技名を付けていた。

『咲かせた花はダチュラ。花言葉は"偽りの魅力"。…可愛らしい見た目で有毒なこの花にはぴったりの花言葉よね?』
「ケッ…その花の毒とやらが俺の中に流れてるって事かよ…。」
『さすがに理解が早いね。貴方の足に刺さった根からその花の毒を流し込んでるの。…さ、思うように体を動かせない貴方を場外へ出させてもらうね。』

そう言って勝己の四肢に根を纏わりつかせて場外へと強く引いた。これで勝ったと思った。そのとき

BoooM!

突然大きな音がしたかと思えば、気づけばわたしの視界には大きな掌のみが写し出されていた。…勝己の手だ。
なんと彼はその麻痺した体で最大火力で爆発を起こしたのだ。纏わりついた根を全て炭にしてわたしの目の前に飛んできて、爆発を放つモーションを取っていた。

見えてはいた。だけど、その速すぎる動きにわたしが付いてこなかったのだ。今やっと何が起こったのか思考が追いついた。

「植物なんかの毒に…この俺が、殺られっかよ…!」
『…わたしの負け。』

目を閉じて諦めたようにそう言うと、ミッドナイトの勝者のコールがこの会場に響いた。ワァッと観客席から歓声の中から「凄かったぞ!」「惜しかったな!」と言う声が聴こえると、"ヒーローの卵"として人に認められたようで嬉しかったりもした。

わたしは観客席に頭を深く下げ、静かにステージから降りた。

_ほんの少しだけ自分自身が"守れる人"に近づけたと思うのは過信だろうか…。

その後に行われた決勝では轟くんと勝己が戦い、轟くんの場外負け。つまり優勝は爆豪勝己となり、彼は見事選手宣誓の伏線回収を果たしたのだった。

前へ 次へ

- ナノ -