体育祭A

菜乃 side

「単純なんだよ、A組は。」

騎馬戦競技真っ只中、緑谷チームが保持する1000万のハチマキを狙っているとそんな声がした。騎手である勝己を見れば彼の額に巻いてあった筈のハチマキは消えていた。

声のした方を見れば金髪のサラッとした髪の毛をした男の子は勝己がしていたハチマキを手にして、さらに挑発をしてきていた。この人はたぶんB組の人だ。彼の挑発にまんまと乗った勝己はみるみるうちに鬼の形相に変え、騎馬をしていた切島くん、瀬呂くん、もちろんわたしもギョッとした。

B組男子へと突っ込めと言う我が大将に従って猛進しながら、わたしは個性を使って相手の騎馬の足元から根を生やして地面へと縛り付けた。その場から逃げられぬよう動きを封じたのだ。勝己なら身動きの取れない相手からハチマキを奪い返すなんてのは造作もないだろうと思ったのだが、そう簡単にはさせてもらえなかった。なんと相手の騎手もまた勝己と同じ【爆破】の個性を使ったのだ。それだけでは終わらず切島くんと同じ【硬化】の個性まで使って、勝己の攻撃を防いだのだ。

「コピーしやがった…!」

勝己はB組の子の個性を【コピー】だと言った。彼は硬化の個性を解いた後に頭に人差し指を当て「まぁ、バカでも分かるよね?」と言った。…さらに挑発しようなんて、彼は怖いもの知らずだ。なんて思っていれば別方向からは白い液体が飛んできて、わたしは驚いて相手を地面に縛り付けていた根を緩めてしまった。代わりに自分達の前の地面を盛り上がらせて土の壁を作り上げ、襲い掛かってくる謎の液体からなんとか身を守った。ホッとする余裕もなく、勝己からは「追え…!」と指示される。作り上げたばかりの壁を壊して先を見れば既にコピーの男子は撤退していた。

わたし達騎馬が追いかけようとしたとき、突然肩から重みがなくなった。見れば上に乗っていた筈の勝己の姿はなく、前方に飛んでいた。切島くんの「待てって爆豪!」という叫びなど無視だ。相手の騎馬の生徒の作り上げたであろう見えない壁に妨害されるも、そんなの御構い無しに破壊してハチマキを二本奪った。地面へと落ちそうになった勝己を瀬呂くんがテープを伸ばして空中キャッチした。

彼は二本のハチマキを奪っただけでは満足せず、盗られたポイントも奪い返して1000万を獲り行くと言った。完膚なきまでの一位とはまさにこの事…。勝己のその言葉に残りの三人全員が気を引き締めた。そして勝己単独で動いていた騎馬が初めて一丸になった気がした。瀬呂くんの事を醤油顔と呼びテープを出せと指示を出し、わたしの事は相変わらずゴミ女と呼んで芝生を作れと命令した。

『ゴミ女は酷くないかな!?記憶力がでしょ!?』
「気にするとこそこか!?」

瀬呂くんのツッコミはごもっともだった。わたしは文句を言いながらもコピー男子の騎馬に向かって草を生やす。きっとこれで地面を滑って行くつもりなんだろう。これを瞬時に思いつくうちの騎手は本当に凄い…。

瀬呂くんのテープの巻き取り、地面の滑り具合、それに加えて勝己が後ろ手に出した爆破で、想像以上の凄まじいスピードで狙いの騎馬に近づいた。またしても見えない壁に妨害されるものの、勝己は個性を使ってその壁を破壊した。そして見事、最初に奪われたわたし達のポイントを奪い返した。

通り過ぎ様にコピー男子は「まだだ…!」と言ってわたしの頭を叩いた。おそらくわたしの個性をコピーして先程わたしがやったように足を止めさせようとしたのだろう。だが、彼は「うるっさ…!」と顔を歪ませて耳を両手で強く塞いだ。

その様子を見た勝己は、コピー男子から遠ざかりながらも声を張り上げた。

「馬鹿はどっちだかなァッ!…後方から観察してただ?分析が甘ェンだよ、見えるところだけを見て、全て見抜いたつもりなんて幸せな頭してンなァッ…!仕組みを理解しようとしねぇと意味ねぇだろ。」

個性の仕組み…。わたしの個性は大地との"対話"だ。つまり、個性が芽生えた時からずっと四六時中草木の声を聞いているわたしは耳が慣れているが、たった今この個性を手に入れた彼からしたらうるさくて敵わないんだろう。都会の人混みに投げ込まれる以上に不快だろう。

『"単純なA組"じゃなくてごめんね…!』

B組の彼にそう捨て台詞を吐くと、最初に彼から言われた事に言い返せたみたいでスッキリした。

わたし達は勢いを止めずそのまま轟くんと緑谷くんがいるであろう氷で覆われた場所へと向かった。勝己が氷を壊して真っ向勝負をしている二組に向かって飛び上がるが、あと少しの距離でタイムアップの声がかかり彼の体は情けなく地面に落ちてしまった。

「爆豪!」「平気かお前!」

勝己の元へと駆け寄り、瀬呂くんと切島くんが声を掛ける。彼は二人の声掛けに返事をせず地面に拳を何度も叩きつけていた。悔しいんだな…。

騎馬戦のわたし達の順位は二位となった。「二位なら上々だな。」と言う瀬呂くんに切島くんは苦笑いしながら「そんな事思うかよ、アイツが…」と勝己を見ていた。勝己はというと、切島くんの言った通り、微塵も満足などしてない様子で「ダァーーーッ」と叫んでいた…。

何はともあれ、第三種目への出場の切符は手に入れたから良しとしよう。


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第二種目めを終えた後、体育祭はお昼休憩を挟んだ。

皆が食堂や外の屋台に向かう中、わたしは一人いつもの校舎裏の木へと向かっていた。生徒や観客が向かう場所とは違うところへ歩いている為、人通りが少なくて歩きやすい。30分もしたら食堂が落ち着くだろうか?

一人歩いていると、正面から歩いてくる人物と目が合った。…フレイムヒーロー:エンデヴァーだ。この国のNo.2ヒーローであり、轟くんのお父さんだ…。

エンデヴァーはわたしと目が合うと、何故だか驚いたような表情を見せて足を止めた。わたしはエンデヴァーの見せた表情に疑問を持ちながらも軽く頭を下げて横を通り過ぎようとした。

「大きく、なったな…。」

大きくなった、と確かにそう言った。周りには誰もいない。つまりわたしに向けて言った言葉だ。振り向けばエンデヴァーは既にわたしとは反対側へと歩いており、その背中は小さくなっていた。

……初対面なんですが…。

エンデヴァーの一言に疑問を持ちながらもわたしはいつもの場所へと向かう。

それにしても…騎馬戦は完全に勝己の策に助けられた。競技中、彼の頭の回転の早さには感心したが、敵だったら敵わなかったかもしれない、と思うと今は少し悔しい。次の競技ではしっかりしないと。さて、第三種目は何をするんだろうか…。

この時のわたしはまだ、その爆豪勝己とステージ上で対戦する事になるなんて知らない。

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