体育祭@

菜乃 side

雄英高校体育祭当日_

「僕も本気で獲りに行く…!」

一年A組の控室内では轟くんが緑谷くんに宣誓布告をしていた。
それに対して緑谷くんも轟くんに勝ちに行くと言った。二人を見つめるクラスの仲間、いやライバル達も、その空気で気を引き締められたように思う。…わたしもその一人だ。

あのくらい強気でいかなきゃ皆んなには勝てない。



入場ゲートを潜れば物凄い数の観客で会場の観客席が埋め尽くされていた。注目をされるのは分かっていたけれど、実際にこの光景を選手目線で見ると凄く緊張してしまう。ゆっくり深呼吸をして所定の位置まで歩く。

18禁ヒーロー:ミッドナイト先生が一年の部の主審のようだ。…それにしても、なんて色気だ…。高校教師がこんな格好をしていていいのだろうか…?

「選手宣誓、1A爆豪勝己!」

ミッドナイト先生の言葉に耳を疑った。わたしが『えぇ!?』と声を上げているとクラスメイト達は「アイツ、入試一位通過だもんなー、」と言っているのが聞こえた。
…一位通過………。この男が口だけの男ではないという事を再認識をした瞬間だった。そして彼の口から放たれた宣誓は「俺が一位になる。」というもので、言わずもがな会場内はブーイングの嵐に包まれた。

なんとなく予想していた通りの彼の発言に思わずクスッと笑いが漏れてしまう。それを切島くんに見られていたようで「咲良どうしたー?」と顔を覗かれる。『なんでもないよ?』とは言ったが、内心は闘争心に燃えていた。"上等よ"と心の中で呟けば、大地達が騒つき始め口々に話しかけてくる。
"主人が燃えてる"
"私達も全力でサポートする"
そんな声が聞こえて、つい『お願いね。』と大地に対しての言葉を口に出していた。不思議そうな面持ちでわたしを見る切島くんが視界に入って、深呼吸をして『お互い頑張ろうね。』とニコリと笑うと「おう!」と両拳をガチンと合わせて返事をしてくれた。

−−−−

流れるように始まった予選ステージで、わたしは第三関門である地雷ゾーンの前にいた。正直なところ、ステージが上空でない以上、わたしにとってクリアは容易かった。仮装ヴィランには自分を中心として震度6強の地震を起こし足場を崩した隙に通過できたし、断崖絶壁の綱渡り…【ザ・フォール】では、スタート地点から伸びている綱を一本千切り、それを掴んだまま下へと飛び降りた。上へと伸びている地面の壁から長く強い根を出させて、勢いを殺す事なく根から根へとつたって前へと体を進ませた。我ながら崖下に潜むターザンのようだなと思った。上にだけ道があるワケじゃないって事だ。

そして地雷ゾーンの前で足を止めた理由は、その爆風の威力、地雷が発動する感度を周りの動きを見て観察していたからだ。
地面の中で根を操り、このゾーン一帯の地雷全てを強く叩かせて爆破させることもできるが、それでは後続にトラップを残せない。現状、おそらくだがわたしは全数の半分よりは前にいるだろう。ならば、わたしだけが有利に進める方法を取るのが良策だ。

わたしの足元で地雷が埋まってるであろう場所を脅えながらも勢いよく踏みつけてみる。
爆破しない。…よし、これならいけるか。

わたしは大地に命令を出して一気にスタート地点から駆け出した。

わたしが大地へと出した指令内容は、"わたしが踏んでも地雷に圧がかからないよう地面の中で根や土で固く覆え"だ。

十数メートル駆け出した所で数人には何の気なしに走っている事がバレてわたしの後に続くものも現れた。

「アイツ、普通に走ってるぞ!、アイツの後ろなら爆発しない!」

背後でそんな声が聞こえた。

『付いてこないほうがいいよ!』

そう声をかけたが、時すでに遅しでわたしの後に続こうとした男子生徒は地雷に吹っ飛ばされてしまっていた。
わたしが通った後は個性解除してるから、ごめんね。と吹き飛ばされた男子生徒を少しだけ哀れに思って心の中でお詫びをした。…ちなみにだがわたしが足を落とす直前の地雷を瞬時に根や土で覆わせている為、わたしの2m程先になると地雷は普通に発動してしまう。

わたしは緩めたスピードを再び上げて前方へと集中した。

これは楽に見えて結構神経を使う。走りながら地雷を見つけては指令を出す。そして数歩進んだ所で自分より後ろの地雷を覆う根の指令を解除する。つまり、わたしの背にピタリとくっついて進めば地雷の被害には合わなかったりもする。

進んでいると辺り一帯に爆発音が轟いた。
足を止め音のする方に視線を向けると、後方、スタート地点の方で大量の煙が上がっているのが見えた。そしてその煙から何かが飛び出してきた。

あれは、なに……?
上空を鳥よりも速く飛ぶ物体を凝視すると、一瞬だけ緑谷くんの顔が見えた。
…まさか…!

大量に上がる煙と縦断していく物体を交互に見て察した。
思いつかないでしょ、そんな事…!ていうか、思いついてもそんな事する!?
ダメだ。自分の事に集中しないと。

……

あれから地雷ゾーンを走り切って、ゴールをした時には酸欠状態だった。
走りながら頭も使うと疲労感が凄まじい。
ふらふらと足をよろめかせながら歩いていると何かにぶつかって今度は後ろへと倒れそうになった。
なんとか体勢を整え前を見ると、わたしの前には轟くんが立っていた。

あ…。

彼を見て冷さんを思い出してしまった。言われてみれば、髪の色半分は一緒だし、涼しげな顔つきはどこか似ているように思う。
冷さんもテレビを通して轟くんを見てるんだろうか…?

「…俺に何かついてるか?」

その言葉にハッとして首を横に振った。
以前も同じように聞かれた気がする。たしかUSJの日のバスの中でだ。

『ごめんね、ぶつかって。』
「いい…。」
『轟くんは一位?』
「…いや、緑谷に越されて二位だ。」

そう言う轟くんは、悔しそうに緑谷くんの背中を見ていた。わたしも緑谷くんの背中を見つめて『凄いね、彼。』と言った。だがそれに対しての轟くんの返答はなく、人混みの中へと姿を消してしまった。

しばらく冷さんに息子さんとのエピソードを話せそうもないなぁ…。
そんな事を思っていると、背後から「オイ、」と物騒な声がして肩を強く掴まれた。振り返ると爆豪く…勝己が立っていた。それも凄い形相で…。

『な、なに…?』
「半分野郎と何仲良さげに話『あ、電光掲示板に順位出たよ…!』俺の話を遮ンじゃねぇ!!」
『わぁ、勝己三位か、凄いね…!』

わたしがそう言うと勝己は般若のような形相で「るせぇわ!殺すぞゴルァッ!!」と怒鳴り散らした。

まずい、これはもう何言っても怒られる。
そう思ってその場から離れようとしたが、そこでミッドナイト先生から第二種目が発表された。
第二種目、それは"騎馬戦"。
個性使用ありの残虐システムで、先ほどの予選種目の順位によって一人一人に相応のポイントがつけられるようだった。
さて、誰と組もうか…なんて考えながら歩き出そうとすればまたしても肩を強く掴まれた。振り返って『今度は何?』と勝己に問えば、彼は真面目な顔つきで口を開いた。

「俺と組めや。」

勝利を見据える彼の視線に逆らう事が出来ず、わたしは彼の右足となる事となった。

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