美しいその人は


轟side

「はい、じゃあ今日はここまで。各々体育祭に向けて、しっかりコンディションを整えてくれ。」

担任のホームルームが終わる。

体育祭か...
アイツも来るんだから、左を使わず、右の力だけで勝ち残るところ見せつけねぇと。

クソ親父を思い出すだけでイライラする。
さっさと帰ろう。

家に帰ると冬美姉さんが迎えてくれた。
...この靴、初めて見るな。

「おかえり焦凍!」
「あぁ。ただいま。...だれか来てんのか?」
「うん!わたしの中学の時の友達が来てるの!」
「...そうか。」

靴を脱いで部屋に向かおうとすると、台所から見知らぬ顔が出てくる。

『あっ、君が焦凍くんだねー?』
「...?」

『あっ、初めまして!私、冬美ちゃんの友達で、君のお父さんの事務所で雇ってもらってる目瞳 石っていいます!』

親父の事務所?
それを聞くだけで気分は良くない。

「こら焦凍っ、お父さんが話に出て来るだけでそんな顔しないでよー!石ちゃんは私の友達!」
「...わりぃ」

謝ると姉さんはホッとした表情をして、友達だというその人は気にしてないと笑っていた。

「アイツの事務所ってことはアンタもヒーローなのか。」

姉さんの友達と言われればなんの違和感もないが、ヒーロー事務所にいると聞くと違和感がある。
それだけ彼女は美人で、とてもヴィランと戦うところなど想像もつかない。

『んー?そーだねぇ。一応こんなでもヒーローやってまーす』
「焦凍、石ちゃんが美人だから戦ってるところなんか想像つかないんでしょ。彼女の個性はメデューサ。彼女と目があった人は石に変えられちゃう恐ろしい個性なんだから。」

俺は一瞬ドキッとした。
姉さんに思っていたことを言い当てられたこともそうだが、彼女の個性にいつかかってもおかしくないくらい、目を奪われていた。

「や、いや...。」
『大丈夫だよ!カラーコンタクトしてる目は見られても石にはならないから!』

彼女は笑って答える。
少しホッとした。

「にしても、その見た目でその個性はずるいよね。誰だって振り向くでしょ。石ちゃんほどの美人なら。」
『おだてても何も出ませんよ?』

二人はきゃはきゃはと笑いながら話している。
と、そこに彼女のスマホがなり、ごめんと言って彼女が電話に出た。

椅子から立ち上がって廊下に出ようとする彼女は話しながら足を止める。

『もしもし大家さん?、えぇ?...アパートが??...はい、。や、それは困るというか...とにかくそっちに行きますので。』

彼女が電話を切ってこちらに向き直る。

『冬美ちゃん、ちょっとわたし帰るね!なんか住んでるアパートが全焼したらしくて...』
「は!?全焼!?なんでまた...」
『そう、事情もよくわかんないんだけど、とにかく見に行くよ。急でごめんね…!』
「いやいや!!...私もついて行く!!」
『やっいいよ!!冬美ちゃん、夕飯の支度とかあるでしょ?私のことは気にしないで!』
「うーん...あっ焦凍!アンタついて行ってあげて!」
「え...」
『冬美ちゃん、ホントに大丈夫だから!ね?』
「わたしが心配なの!焦凍、頼まれてくれるかしら?」
「…俺は構わない。」

そう言うと、彼女は姉さんの押しに負けたようで、俺に『じゃあお願いしてもいいかな?』と申し訳なさそうな顔を向けてきた。
自分が学校から帰ってきてから制服のままだったことに気づき、適当に服を着替えてから靴を履く。

「じゃあ焦凍、よろしくね!!石ちゃんも!石ちゃんの分も夕飯用意しておくから、帰ってきてね!」
『冬美ちゃん、、色々とありがとう。』
「...早く行かねぇと。」
『そうね?、焦凍くん、付き添いお願いします!』

家が焼けたというのに、彼女の態度は変わらずだ。
その美貌で無邪気に笑う彼女はあまりにも美しく、瞳を見たものを石に変える個性を持っていることを思い出すと身震いしそうになる。

彼女の家まで案内してもらうと、「ここだ」と言うアパートの前には人だかりが出来ていた。
彼女は1番の年長者であろう人に話しかけ、事情を聞いている。

アパートを見れば、本当に全焼している。
火こそ消えてはいるが、とても住めるような状態ではないことは確かだ。

大家であろう人との話が終わり、彼女が俺の元に来る。

『焦凍くん、しばらく住めそうにないみたい。出火原因はおそらくタバコの火の消し忘れで灰が落ちたのに気づかず、そのまま家主が家を出ちゃったみたいで…。』
「そうか...」
『まぁ、事故なら仕方ないよね。』
「家、どうすんだ?」
『とりあえず今日はホテル泊まりかな?とにかく今日は持ち出せるもの持ち出そうにも、入れそうにないから冬美ちゃんのとこに戻ろうかな?焦凍くん、一緒に来てくれてありがとう。』
「いや...」

俺の家に向かう途中の彼女は、言葉でこそ、ショックだの困ったなぁと言っているが、そこまで落ち込んでないように思えた。

−−−−
ガラガラー

家のドアを開けると姉さんが走って来る。料理途中だったのだろう。エプロンを付けて箸を持ったままだ。

「おかえり!どうだった?」
『お邪魔します。えへへ、見事に丸焦げ!』
「えぇえ!?笑い事じゃないよそれー…。住むとことか家にあった大事なものとかあったでしょ?」
『大丈夫!家はどうせ賃貸だったし、引っ越しも考えてたんだよねー。まぁ、しばらくはホテル暮らしにするよ。大事なものは実家に置いたままだし、お金とスマホと身分証は持ってるからなんとかなる!困るのは明日から着る服くらいかな?』

あまりのあっさりさに俺も姉さんも呆然とする。

「石ちゃんてばー!そんな簡単に言えること!?」
『まっ、なんとかなるって!』

姉さんが彼女を台所に通して、俺と姉さんと彼女のご飯を茶碗によそう。

「あ、家が見つかるまでうちに泊まれば?お父さんに言って明日おやすみもらって服とか買いに行けばいいでしょ?」
『そんな、悪いしいいよ!』
「待ってお父さんに連絡して来るから!」
『あっ…ちょっ!!』

彼女は姉さんを止めたが、スマホをすでに持っていた姉さんはそう言うや否やすぐに耳にスマホを当てる。

「あっお父さん?石ちゃんなんだけど、、そうそう。でね……」

姉さんが成り行きを話している間、俺の横で彼女は『エンデヴァーさんにこんな失態をバレるなんて…。』と頭を抱えていた。
電話を終えた姉さんはスマホを置いて口を開く。

「石ちゃん、お父さんが、家が決まるまでうちに泊まっていいって!あと、ここのところ働き詰めだから明後日まで休めってさ!」
『ええっ!?』
「まぁ焦って探さなくてもうちはいつまでもいてくれていいから!ねっ焦凍!」
「...?あぁ?」
『...冬美ちゃん、焦凍くんも、ありがとう。あとでエンデヴァーさんに連絡入れておくよ。』

夕飯を食べて、話をしていると、体育祭の話になった。

「あ!そろそろ雄英は体育祭だよね?」
「あぁ、来週だ。」
『懐かしいなぁ!私の頃も盛り上がったなぁ。』
「...?」
「石ちゃんは雄英高校の卒業生なんだよー。」

そういうことか。

「あ!そうだ!せっかく先輩がいるんだからさ!焦凍、手合わせしてもらいなよ!!」
『んー?若い子の体力にわたしがついていけるかな?まぁ、わたしなんかでよければ相手はするよ。』

ヒーローには見えない容姿・雰囲気だが、本物に違いない。相手にとって不足はない。

「...よろしくお願いします。」

俺がそういうと、彼女はふんわりと笑う。
やっぱりヒーローには思えないほどに美しい。

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