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なまえ side
朝目が覚めて再び勝己さんとそういう行為をしてから2時間が経とうとしていた。あれからまた求められると思っていたのだが、暫く唇を寄せ合うと勝己さんは私の身体を解放してくれた。そしてシャワーを貸してくれて浴室から出れば、私の体には余るほど大きな勝己さんのスウェットに腕を通した。そのままリビングへと向かえばおむすびやお味噌汁が出来上がっていて、私たちは遅めの朝食兼昼食を摂った。
そして現在、二人してソファに並んで腰掛けてテレビを見ているところだ。流れているのはグルメ番組。
『あれ、美味しそうですね。』
そんな言葉を口にしつつもテレビで流れている内容などほとんど頭には入ってはいない。というもの、先ほどからずっと自分の腰に回されている勝己さんの腕が気になって仕方ないのだ。座る位置を少しでも動かそうものなら一度腕を退けて腰に掌を添えてさすってくれる。「痛むンか。」と少しだけ申し訳なさそうな顔を作る勝己さんは少し珍しく思えて逆に申し訳なくなってしまう。
『あ……いえ、そうではなくて…。』
「…悪かったな昨晩から無理させちまって。」
『…っ、』
その話題を出されると昨晩からの行為を思い出して体温が上がってしまいそうになる。爆豪勝己という男にあんなに愛されて嫌なはずがない。知り合う前までこの人の事を怖いだの苦手だの思っていた感覚なんてなかったみたいに、いまやすっかり私は彼に溺れてしまっている。
今問題になってるSNSの件の所為で、手を繋いで外を歩いて美味しいものを食べに行く…なんてありきたりなデートが出来ないのは少しばかり残念だ。だけど、広いリビングで二人で身を寄せ合って過ごすこんな時間も好きだったりする。
『落ち着いたら、勝己さんとデートしたいです。』
話題を逸らそうとそんな事を口にした。すると勝己さんは何かを考えた後口を開いた。
「…来週遠征あっから、それから帰って来る頃にはクソモブ共もこの手の話には飽きてンだろ。」
『遠征?…長いですか?』
「2週間だ。」
『…そう、ですか…。その間会えないと思うと少し寂しいですね。』
そう返せば、勝己さんは腰に添えていた手をグッと引き寄せるようにしてきた。もう片方の手は後頭部に回されている。
「少しだけかよ。」
彼は拗ねたような口振りをした。表情からもご機嫌斜めな様子が伺える。
『い、今のは言葉の文で……。すごく、寂しいです。勝己さんも寂しいですか?』
「ん…。こんだけ一日中くっついてりゃ、二週間は気が狂うかもな。」
『へ!?』
「あ?何をンなに驚いてンだよてめェは。」
『だってそんなにストレートに言われると思ってな…んっ…。』
言葉の途中で唇を合わせられ、続きの声は口の中に戻されてしまう。合わさった唇から伝ってくる体温も、割って入ってくる厚い舌に舌を絡められるのも全てが心地良く感じて、これだけで頭の中にモヤがかかったみたいになってしまうのだ。
「こんだけで顔蕩けさせやがって。」
顔を見られるのが恥ずかしくて俯くも、「なまえ。」と低くて優しい声音で呼ばれると条件反射で顔が上がる。再び口づけを交わしてねっとりと熱く舌を絡ませると体温と共に息も上がってくる。
『…っ、か、勝己さんは…』
「あ?」
舌と唇を解放してもらえた時、私は疑問に思っていたある事を尋ねることにした。
『その…会えない間にシたくなったりしないんですか…?』
「………は?」
恐る恐る彼の顔を見れば「なんなんだ急に」とでも言いたそうな顔をしていた。とんでもない事を聞いている事は理解している。だが、どうしても気になったのだ。…毎度遠征に行った時はメッセージが数件くるだけで通話なんかもない。私は毎度寂しくて、早く会いたくて仕方ないのに…といつも思うから。…だからって質問の仕方を間違えた。彼が性欲が強いと思っていても、この言い方じゃなんだか誤解を招きそうだ…。
『わ、私は早く会いたくてたまらないし、声が聞きたいのに、勝己さんは遠征中に連絡を取りたがらないから…。それが気になっただけです…!夜に連絡したら迷惑ですか?』
私がそう言い直すと、彼は息を一つ吐き出したあと、私の身体をきゅっと抱きしめてくれた。そして耳元でボソリと「…会いたくなンだろーが。」と言って言葉を続けた。
「声聞いちまったらすぐにでも飛んで行きたくなんだよ。…ついでに抑え効かなくなっちまう。」
『抑え…?』
「普通に抱きたくなる。」
『へ!?』
「あ?てめェから聞いてきたンだろーが。…けど、すぐに飛んでいってやれる距離じゃねぇ事なんかザラで、昨日の夜みてェに抱き潰したくなっから、連絡してねェだけだ。…迷惑なんてのはあり得ねぇわ。」
彼がどんな表情をしてるのかが気になって抱きしめられた身体を引き剥がそうにも男の人の腕力には敵わない。仕方なくそのまま会話を続ける事にした。
『私から聞くのも変な話ですが、そういう時って一人でシちゃうんです、か…?その…えっちな動画とか……。』
「……聞くか普通。」
『スミマセン、気になって…。』
勝己さんはハァッ_と盛大に息を吐き出すと、私を抱きしめる腕に力を込めた気がした。
「抜けねンだよ…。」
『え?』
「てめェのがエロ過ぎてその辺のAVなんかじゃ抜けなくなったっつってんだよ…!」
『え…えぇ!?…えと、それはつまり…?』
「クソ…、てめェにしか欲情しねェ、っつっとんだ。」
そう言われると嬉しい反面、なんだか恥ずかしくて顔に熱が溜まっていくのが分かる。なんと答えるべきなのか頭を回らせていると、突然視界がグラリと揺れた。
咄嗟に閉じた目を開けると、視界にはリビングの天井と勝己さんの顔。その表情に熱が籠って見えるのは気の所為なんかじゃないのだろう。
昨晩から何度も愛されてるのにこんなシチュエーションになれば、この先をまだまだ期待しているなんて、彼が知ったら呆れるだろうか。だがそれほどまでに私は爆豪勝己という沼に堕ちてしまっているのだ。
ソファに沈められて唇が重なると、舌を絡めるまでが自然の流れになってる。そしていつもこのままドロドロに甘やかされて溶かされてしまうのだ。
絡められる舌に応えて、口の端から混ざり合った二人分の唾液が溢れるのも気にもせず求め合う。服の裾からゴツゴツとした指が入ってきて身体のラインをなぞられるのが擽ったくて気持ちがイイ。
暫くのキスのあと、唇が解放されると私を見下ろす欲情し切った赤い瞳と視線がぶつかった。
『このまま…ずっと離れたくないです…。』
ついそんな事を口にしてしまった。
明日が来ても、明後日が来てもこの人の隣にいたい。二週間も会えないなんて考えたくもなかった。そんな我儘が口から出てしまっていたのだ。
ポロリと出てしまった言葉を隠すように指先を唇に当て、『なんでもありません…。』と言った。だが、すぐに勝己さんの手によって指は払われて代わりに触れるだけの口付けをされた。
「身体、しんどくねぇンかよ。」
『…大丈夫です。会えなくなる分、今勝己さんを補充しときたいです。』
「…てめェを前にして手加減してやれそうにねェ。」
『…っ、はい…。』
最後の方は自分で言ったことが恥ずかしくて顔を見て話すことができなかった。瞼を落としていると、私の上に乗っていた体重がなくなり、身体はふわっと宙へと浮かされた。目を開けて状況を確認すれば、お姫様抱っこで抱えられていた。
『勝己さん…?』
「ここじゃ狭ェ。ベッドで本気で抱き潰させろや…!」
私は返事をする代わりに彼の服をキュッと掴んでその身体にしがみついた。
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