ばくごーけ!幸せの序章


(ばくごーけ!:長女妊娠中のお話)
爆豪 side

「……」

家に帰れば静まり返ったリビング。アイツはもう帰っている筈の時間なのにおかしい。
どこ行ってんだよ。

まさかアイツまた…!

ハッとしてリビングを出て玄関の扉へと向かうとガチャガチャと鍵を開ける音の後、扉が開いた。

『ただいまー!』

疲れたー。と言って立っているのは両手にスーパーの袋をぶら下げたなまえだった。
その両手からスーパーの袋を乱暴に奪う。

「オイコラテメェ!!何こんなもん持っとんだ!」
『??スーパー行ったら食材持って帰るでしょ?』
「そうじゃねンだよ!!!重てェモン持つなっつっとんだ!!買い物行きてぇなら言えや!付き合ったるわ!」
『そ、そんなに怒らなくても…。このくらい大丈夫だよ?』
「両手に袋抱えて、こけたらどーすんだぁ?あぁ!?」
『…妊娠分かってから、勝己は心配性すぎだよ…!』
「テメェの意識が低すぎンだよ…!!!!」

これで何度目だよ。
つわりが酷いと言われるであろう時期でさえもコイツはけろっとしてやがって、休んどけってつっても家事をしようとしていた。安定期ってのに入ってからは余計に家事を頑張るようになっちまって。
…あーークソッ!

仕事だって安心できるもんじゃねぇ。「さっさと辞めて大人しくしとけ」と言ったのになまえは『戦闘要請は引き受けず、院内の仕事に専念させてもらうから、ね?いいでしょ??』と言って困った顔をした。そんな顔されちまえば、それ以上何も言えなくなっちまった。
キッチンまで俺の後をついて来るなまえに舌打ちを漏らして睨みつける。

「いいからテメェはもう大人しく座っとれや!」
『い、いいよ…!ご飯くらい作れる』
「…やってやるっつってんだから甘えとけや…!何が食いてェンだ!」
『な、なんにもさせてもらえない…!』

そう言って渋々ソファの方へと向かうなまえ。
…何もさせねぇ為に俺が早く帰って来てンのに、なまえがいつも通りしてりゃ意味がねぇ。
ちょっと座ってりゃすぐに眠りに落ちていたり、行きたいと言ったショッピングモール内を歩いていても『休憩してもいい?』と休む事が多い事から、それなりに体力は削られてんだろう。起きる度、休む度に『ごめんね。』と謝るなまえにいつも「なにを謝る事があんだ」と返してやっていた。

顔色を見て、俺が先に気付いてやりゃあいい。
コイツが謝ることなんか一つもない。


飯を作ってテーブルに持っていけば、ソファに座っていたはずのなまえの姿が消えていた。覗きこんで見ると、やはりソファに横になって目を閉じていた。
規則正しい寝息を立てるなまえに背もたれにかけてあったブランケットをかけてやり、横に腰を落とした。

『ん…。あ、また寝てた…。ごめんね。…掛けてくれてありがとう。』
「…、身体、冷えんだろうが…。」
『うん。…勝己、いつもありがとう。でも、あまり無理しないでね?勝己の身体が壊れちゃう。"眠つわり"ってやつで眠いだけだから、わたしだって色々できるんだよ?』

眠気まなこにゆっくりとした口調でそう言われる。
コイツは…自分が疲れてる時まで人の心配してんじゃねぇよ。それに、テメェの身体がダメになる方がよかねぇだろーが!自分1人の身体じゃねぇんだからよ…!

「ケッ…舐めんなや。ンなにヤワじゃねぇわ。」
『ふふ、そうかな?』
「俺のことは気にする必要はねぇよ。腹ン中のガキとテメェの心配してろや。」
『…今更だけど、勝己も赤ちゃん喜んでくれてるの嬉しいなぁ。』

本当に今更な台詞だなと思っちまう。
喜ぶなんざ当たり前だ。この世で最も大切だと思う、愛おしい存在と自分との間にできた新しい命を愛しいと思うなんてのは…。

『よく思うの。』
「…」
『この子が勝己に似てて欲しいって。』
「あ?」

なんでなまえがそんなことを言い始めたのか分からねぇ。それに、俺になんかこれっぽっちも似ンでいいわ…。見た目も中身も全部コイツ似でいい。幸せそうにふわりと笑いながらそう語りかけるなまえを見てそう思っちまう。『なんとなく、そうがいいって思っちゃうんだぁ』とも付け足していた。
身体をゆっくりと起き上がらせ、ソファに座り直すと俺と同じ目線となる。そして優しく笑った。

『幸せを沢山くれてありがとう。』

まだ寝ぼけてんのか恥ずかしげもなく普通にそんなことを言って来やがる。
…それはこっちの台詞だわ。
こんなにも大切にしたいと思うのも、
守りたいと思うのも
愛したいと思うのも
コイツだからだ。

ちらりとなまえを見てすぐに視線を逸らして口を開く。

「ケッ…こんなもんで済むかよ、バァカ。」

そういうと頬をピンクに染めて横でくすくすと笑うなまえ。
一生かけて愛してやる。テメェも、俺らのガキも。

fin..

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