オリジンに『赤ちゃんできてた』


(緑谷)
家に帰ると誰も居なかった。彼女は今日仕事が休みで予定は無いと言っていたから、てっきり『出久おかえり。』と出迎えくれると思っていた。まぁ、どこかに出掛けて羽を伸ばしていると思う方がホッとする。毎日、お仕事頑張って夕飯まで使ってくれてるし、休みの日は好きな事をしてもらわないと。
靴を脱いで、帰りに買った苺は冷蔵庫に入れ、ソファに腰を落とした。少しだけ休んだら、今日は僕が夕飯を作ろう…。

ソファの背もたれに身体を預けて10秒足らずで、玄関が開く音がした。そしてリビングの扉が開いた音と共に『帰るの遅くなっちゃった。出久おかえり。』と心地よい声音が聞こえた。

「ただいま。キミもおかえり。」
『ただいま。すぐにご飯するね。』
「いいよ、僕がするからゆっくりしてて?」
『いいの?』
「せっかくのお休みはうんと休まなきゃ。…お出かけ楽しめた?」
『…じゃあお言葉に甘えようかな?…お出かけっていうか、病院に行ってたの。』
「びょ、病院!?どこか悪いの?ごめんね!僕全然気づけなかった…!」

僕が慌てると彼女はクスッと笑って、座ってる僕の前に立ち、見るからにスベスベしてそうな綺麗な手で僕の両手を包み込んだ。

『違うの。赤ちゃんができてたの。』

彼女は幸せそうに笑ってそう言った。僕が「へ、?」と声を漏らすと彼女はまた『ふふ、』と笑った。

『出久と私の赤ちゃん。』

彼女が再びそう言ってやっと思考が追いついた。気づいたら立ち上がって彼女の肩に手を置いていた。

「赤ちゃん!?僕とキミの!?う、わぁああ///どうしよう。めちゃくちゃ嬉しすぎてどう反応していいのか…と、とりあえず座って!」

自分が座っていたところに彼女を座らせると彼女は口元に手をやり笑いながら口を開いた。

『ふふ、なんで出久が床に座るの?』
「あ…いや、なんでだろう、ね??思わず…。それよりゆっくりしててね。これからは頑張りすぎないで!あ…いや妊娠したから言ってるワケではなくて、これはその…いつも思ってるけど、今後は更に気をつけてねって意味で………」
『分かってるってば。』

先ほどから終始幸せそうに笑う彼女があまりにも愛しくて、僕は床に座ったまま彼女の腰に腕を回した。自然と頭の位置は彼女のお腹にきてしまう。

「キミの子はきっと世界一可愛いんだろうね。」
『違うでしょ。私と出久の子、でしょう?』
「ご、ごめん。その、まだ実感が湧かなくて…。」
『ふふ、いいよ。それじゃあ赤ちゃんの名前は出久に考えてもらってもいいかな?』
「へ!?!?名前って言うと一生この子が使うもので…それを僕が決めていいの?」
『うん、一生使う大切なモノだからこそ、出久にお願いしたいの。この子が生まれてきて初めてのプレゼントとして素敵な名前を。』

彼女は優しく笑って僕の頭を撫でてそう言った。その笑顔に釣られて僕も笑って答えた。

「責任重大だぁ…。けど、一生懸命頑張るよ。」

(『よろしくね、パパ?』「パ、パ…!」『声裏返ってる(笑)』)


−−−−
(爆豪)
「さっきから何なんだよ、モジモジしてキメェ…!言いてェ事あんならハッキリ言えや。」

夕食後にそんな事を口走ったのは、目の前でずっと何かを言いたげにするこの女の態度が原因だ。
俺がそう言えば、コイツはテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰掛け言いにくそうに口を開いた。

『勝己くんは子ども好き?』
「…嫌いだわ。」
『…』
「自分の要望が通らなけりゃ泣けば何とかなると思いやがって、ドタバタ走り回ってうぜぇとしか思わねぇ。」
『そっ、か…。』

あからさまに表情を暗くしたコイツを見て、俺は盛大にため息をついた。…あぁ、ンとにめんどくせぇ女。

「自分のガキってんなら、違ェだろーがな。」
『え…?』

向かい合って座るこの女は目を見開いて俺を凝視する。思った通りの反応をしやがる。「その辺で見かけるモブガキなんか好きじゃねぇっつっとんだ。」と付け足せば、分かりやすく表情を晴れさせた。そして泣いてンのか笑ってンのか分かんねぇ顔をして口を開いた。

『あのね、赤ちゃんできてたの。』
「ケッ…だろーな。」
『だろうなって…分かってたの?』
「反応的にそうだろーが!たくっ、回りくどいンだよおめェはよ。」
『だって…勝己くんは子どもとか嫌いそうだし、こんな事話し合ったことも無かったから不安で…。』
「憶測で決めつけンじゃねぇわ!てめェとのガキを嫌いになる理由がどこにあるってンだ。」

くだらねぇ決めつけでウダウダと悩んでやがるこの女に心底腹が立つ。…この女、本物のバカか。
俺は椅子から立ち上がって、俯いて座るコイツの横に立った。そして手を引いて立ち上がらせて俺の方へ抱き寄せた。

「話をして来なかったのはその通りだ。けど、ちゃんとそのつもりだったわ。てめェと共有できるモンを俺が嫌いになれるワケねぇわ。もうめんどくせぇからンな顔してンなや。」
『…うん。勝己くんが赤ちゃんの名前決めてくれる?』
「…女なら'殺す'に'生きる'でサツキ。男なら…」
『'名は願い……'』
「どっかのジーパンの真似してンじゃねぇわ!!」
『もう勝己くんのネーミングセンスはアテにしない。』
「冗談だわ。ちゃんと考えといてやらァ…。」

馬鹿なコイツの望むままに動かされてる俺はきっと大馬鹿野郎ってところか?

−−−−
(轟)
仕事が終わって家へと帰れば、彼女がリビングから玄関先まで小走りでやってきた。『おかえり』と言われると思ったのに、俺の予想は外れた。

「赤ちゃんが…できてた…!」

そう言って後ろ手に隠していたエコー写真を身体の前に出して俺に見せてきた。
それを手に取り見てみるが、正直何も分からない。人の形もしていないし、白黒で何が何なのかも分からない筈なのに、愛しさが込み上げてくる。自分の体に変化があったワケではないし、「妊娠した」と告げられただけで生活がいきなり変わったわけでもない。それなのに、この一枚の写真は、たしかに俺と彼女の子の存在を証明し、俺の中にまだ見ぬ子への「愛しさ」を生み出した。俺がその写真に釘付けになっていると、彼女は『何が何だかわかんないけど、写真見ると嬉しくなるよね。』と微笑んだ。

抱きしめたくなって身体を寄せたが、彼女を包み込む前に動きを静止させた。

『どうしたの?』
「お前のこと、抱きしめてもいいか?」
『どうしたの?いつもはそんな事聞いて来ないのに。』
「いや…すげぇお前のこと抱きしめてぇけど、腹に当たると子どもが潰れちまうんじゃねぇかって…。エコー写真に書いてある数字、ミリ単位だ。」
『ふふ、…そんな風に考えてくれてるの?大丈夫だよ。パパとくっつけるから赤ちゃんも喜ぶかもよ?』
「…割と強めに抱きしめたい…。」
『ふふ、どうぞ。』

彼女が笑う姿に安心して、俺はその身体を自分の腕の中に閉じ込めた。腹の中の子ごと大切にする様にゆっくりと、それでいて強く彼女の体を抱きしめた。

10秒程度閉じ込めたあと、身体を離して互いに見つめ合えば、自然と表情が和らいでしまう。

リビングのソファまで移動して二人で腰を落として彼女の腹に服の上から左手を乗せると『何してるの?』と首を傾げた。

「腹、冷やすと良くないだろ。俺が一緒にいる時はこうしてる。」
『そんな過保護な……。』

過保護にもなって当然だ。愛しい人との間にできた小さな存在を大切に思わないなんておかしいだろ。

「大切にしたいんだ、お前のことも、この子のことも。」

fin..

 戻る
- ナノ -