新春!ラブハプニング?


なまえ side

お正月の三が日を終えて、自宅へ帰省していた生徒達は少しずつ寮へと戻ってきていた。年を明けて5日も経てば全員が寮へと戻り、残り少ない冬休みをのんびりと過ごしていた。

寮生活はクラスメイトと過ごせて楽しいが、外出しようとすると先生に許可を取らなければならないし、快適に過ごせる一人部屋があっても変わり映えのしない自室に篭るのは退屈で……まぁ何かと寮生活には不便も多いし暇なのだ。

共有スペースで数人が集まって談笑していると、上鳴くんが「なんか正月らしーことしねぇ?」と話を持ち出した。その発言に三奈ちゃんは身を乗り出して「あ!それいい!」と賛成した。瀬呂くんも「お!いいじゃん!」とソファから身を乗り出した。

「んじゃさ!部屋に篭ってる奴らも誘ってさ、今年の福男、福女を決めようぜ!題して…“決めろ!正月王!”とかどうよ!」

ドヤ顔で変なタイトルコールをする上鳴くんに、正月ハイになっているクラスメイト達は「正月王ー!」と呼応し拳を振り上げた。

なんだ、正月王って…。
そう思いながらも、現状暇を持て余してるのは事実だ。私も混ざろうと立ち上がるが、ある事を疑問に思った。

『正月王って言ってもさ、何するの?カルタとか羽子板とか…持ってる人いるのかな?』
「あ、たしかに……。」
「そこは大人の力に頼ってみるっきゃないっしょ!」

考える素振りを見せた三奈ちゃんに上鳴くんは良策でもあるのか、「俺に任せろ」とでも言うように得意げな顔つきをして見せた。

−−−−

「やぁ、みんな。明けましておめでとう。」

三奈ちゃんと私で寮内を周り、自室で過ごしていたクラスメイトに声をかけ、外で待っていると上鳴くん、瀬呂くんはマッスルフォームでないオールマイトを連れてきた。…その横には気怠げに頭を掻く相澤先生までいる。
二人がいるワケを聞けば、どうやらオールマイトが羽子板を持っていてそれを貸してもらったそうだ。相澤先生は教員用の寮のロビーにたまたま降りてきた所をオールマイトに捕まって連れて来られたそうだ。

「なんで俺まで…」とため息を落とす相澤先生の肩にオールマイトは手を置いて「いいじゃないか、相澤くん休みなのにずっと仕事してるし息抜きにと思って。」と言っていた。

二人の会話などそっちのけで生徒達は「対戦相手決めよー!」と既にくじ引きを持って気合い十分だ。

こうして先生2人の審判の下で総勢21名の羽付き大会が始まった。

−−−−

「てことで、一番得点率が低かったみょうじが罰ゲームな!」
「みんなのジュースの買い出しよろしく!」

羽付きの総合得点の結果表を見て、瀬呂くんと上鳴くんは私に向かってそう言った。各々個性を仕掛けてくるものだから、羽付き大会なのか、個性お披露目合戦なのか途中からワケがわからなくなっていた。

常闇くんはダークシャドウが羽子板持ってるし、爆豪くんは爆風と共に羽飛ばしてくるし、三奈ちゃんは足元に溶解液出してきて転ばせてくるし、飯田くんはとにかく動きが速いし…と、皆自身の個性を存分に発揮した。おかげで見事に全員ボロボロだし、私の髪の毛には峰田くんのモギモギがついてしまっている。頭についてしまったのは、彼は羽と一緒に大量のモギモギを投げてきて撹乱攻撃を仕掛けてきたのだ。
深くため息を落として、『わかったよ…。』と敗北を悔やみながらも罰ゲームを受け入れる事にした。

『チャットアプリに、欲しい飲み物打ち込んどいて。』

そう言って羽子板をオールマイトに返して、隣に立っていた相澤先生に体を向けて『そういうことなんで外出しますね』と伝えた。するとお茶子ちゃんと透ちゃんが私に近寄り口を開いた。

「なまえちゃん一人やと大変やろうし、私らも手伝うよ!」
「そーそー。私なまえちゃんの次に成績悪かったしさ!」
『ふ、二人ともー!(泣)』

二人の優しさに感動しながら、お言葉に甘えてお願いしようとすると、相澤先生がはぁ_と息を一つ吐き出した。どうしたのかと思って視線を移すと、先生は「俺が着いてってやるから二人は戻っとけ。」と言うのだ。

言われた事への理解が追いつかず先生を凝視すると、「生徒三人が夕方に外出するよりも、教師が同行した方がトラブルには巻き込まれんだろう。」と口にして、「ホラ、さっさと済ませるぞ。」と歩き出してしまった。

「相澤先生がいるなら安心やね!」
「じゃ、私達は戻ってるからよろしくね!」
『そ、そんなー…!』

そそくさと寮へと戻っていく二人に私の悲痛の叫びは聞こえていなかったのだろう。二人の後ろ姿を見て、とにかく先生に追いつかなきゃと黒い背中を追いかけた。



「これで全部か?」
『えーっと…、はい全員分あります。』

近くのスーパーで買い出しを終えると、先生は全員分のジュースが入った袋を軽々と持ってくれた。
ほ、細そうなのに力持ちだ…。そりゃそうか、こんなに怠そうだけど、正真正銘のプロヒーローだもんね。

『ごめんなさい、お仕事中だったのにこんな事にまで付き合ってもらって…。』
「…生徒の面倒見るのは教師の仕事だからな。」

相変わらず死んだような目で答える先生に申し訳なさしか感じないし、これ以上何話せば良いのかも分からず思考を巡らせ、話題を…と考えていた。すると、突然腕を引かれて視界は真っ黒に埋め尽くされた。

「車…。」

上から先生のそんな声が聞こえて、見上げるとすぐ近くに先生の顔があった。その顔の近さに思わずドキリと心臓が跳ねてしまう。

『あ……ありがとうございます…!』

御礼を言って慌てて離れようとすると、頭が引っ張られるような感覚がやってきた。…嫌な予感がした。

待って…頭………もしかして…。

「みょうじ…、お前マジか…。」

み、峰田くんめーーーー!!
先生の呆れた声がしたあと、私は心の中でもぎもぎ頭の男子を想像して叫んだ。羽付き大会が終わってそのまま出かけたから、峰田くんに付けられたもぎもぎも髪の毛についたままだったのだ。そして、それが今先生の首に巻いてある捕縛布とくっついてしまったというワケだ。

『わ…ごめんなさい。…捕縛布ってはずせますか?』
「一本絡まってるだけならまだしも、二、三本くっついてちゃ外せん。」

ど、どうしよう…。先生にくっついたまま帰るなんて大迷惑この上ない…!これは致し方ないな…。そう思って私は自分の髪の毛を掴んで引き千切ろうとした。だが先生は私の手を掴んでこの行動を阻止してきたのだ。

「何してんだ…。」
『捕縛布が外せないなら髪を千切ろうと思って。』
「女が簡単に髪を千切ろうとするなよ…。外せないとは言ったが、切ることは出来るからちょっと待て。今切って………あ…」

自分の体を探っていた先生の動きは言葉を発している途中でピタリと止まった。

『あの、先生?』
「コレを切るナイフ、部屋に置いてきたな。」
『んぇえ!?…ど、どうしましょう…?』

先生とこの距離感でいるのも正直心臓に悪い。先ほど強く引かれた腕はなんとなく熱くなっているような気がしたし、いつもだらけきってる雰囲気からは想像も出来ない程、私の腕を引く力は強かった。
先生から視線を逸らしつつ、峰田くんのもぎもぎに触れぬように髪の毛を引っ張ってみるが、やはり捕縛布としっかりくっついていて取れそうにない。どうしてやろうかと髪の毛と捕縛布を繋ぐ峰田くんのもぎもぎを見ていると、先生はやれやれと息を吐いたあと私の膝裏に手を回した。

『わ…!?な、何してるんですか降ろしてくださいー!』
「くっついてちゃ歩きにくいだろ…。抱えて運ぶ方が合理的だ。」
『運ぶって、モノじゃないんですから…!』

先生は私の抗議する声など聞こえてないフリをして、私を抱えたまま教師寮まで走り出してしまった。

み、峰田くんめー!!



「はぁ…うるさいのが居ない時で良かった。」

教師寮のロビーまで着くと、先生は少しだけ上がった息を整えながら、そう安堵のため息を漏らした。先生の想像してる人物はマイク先生なのだろうか、それともミッドナイト先生なのだろうか……。まぁあの二人でなくともこんな現状を見てしまえば、誰だってうるさくもなるだろう。
誰もいないロビーに、私もホッとしていると先生は自分の部屋へと向かった。勿論、抱えられたままの私も先生と一緒に部屋へと向かうことになる。

エレベーターを降りて、通された先生の部屋は驚くほどものがなかった。机とその上に広げられた書類の山と…あとはベッドといつもの寝袋だけ。
室内で体を降ろしてもらい、相澤先生らしい部屋を見渡していた。…服装もだけど、室内も黒系統のものが多い。黒いベッドにチャコールグレーのカーテン…。室内でも仕事するか寝るかくらいしかしないのか、机の上は書類の山であるものの、それ以外は生活感を感じられなかった。

『のわっ…!?』

部屋を見渡す事に夢中になっていた私は、突然髪の毛を引っ張られバランスを崩して倒れ込んでしまった。
あれ…?床に倒れたと思ったのに痛くない。閉じていた目をゆっくりと開け体を起こそうとするが、うまく頭が持ち上がらない。どうやら今の衝撃で、また頭のもぎもぎが何かに押し付けられて頭皮ともくっついてしまったようだ。

「お前な…。ナイフ取ろうとしたら倒れ込んでくる奴があるか…。」

すぐ近くで落ち着いた低い声が聞こえてきて、自身の心臓はドクリと大きく音を立てた。そして全てを察した。

たぶん私は今先生を下敷きにして倒れ込んでいるし、先生の捕縛布と私の頭皮までくっついてしまったようだ。さっきからついた掌が暖かくて床にしては硬くないと思っていたけど、掌から伝ってくるのは先生の体温で、床の硬さじゃないと思っていたのは先生の身体と筋肉だ。

『わぁー!ごめんなさいごめんなさい…!』

謝罪と共に離れようとするがちっとも離れない。

「普通上と下が逆だろ…。」
『へ!?…言ってる場合ですか!……っ、あ、の…せんせ?』
「……」
『えと…先生の…。』
「…不可抗力だ。」

“アレが当たってます。”
そんなこと恥ずかしくて言えるワケがないし勘違いだと思いたい。…だけど、自分の股に当たるモノの感触がどんどん硬くなってきているから誤魔化しようがない。
ど、どうしよう…。先生が“まずい、”って顔してるのなんかちょっとえっちだし、頭がピタリとくっついてしまっているから先生の心臓の音が早く鳴ってるのが私の体に直に伝ってくる。

「少し我慢しろよ。」

そう言うと、先生は私の背に片腕を回して支えながら二人分の身体を起こした。そして私の腰に手を添えたかと思うと、自分から私の身体を離した。

股に先生のアレが当たる感覚は無くなったものの…、この体勢は……。
ぱっと見、対○座位のようなこの体勢に私は戸惑いを隠せずにいた。

「切ってやるから動くなよ。」

そう言って一つ息を吐くと、手を後ろに伸ばして、机の上にあったであろうナイフを手にした。先生が捕縛布を切ると、固定されていた頭はようやく自由を取り戻した。

「…悪かったな。」

私を身体の上から降ろすと、先生はバツが悪そうに頬をかきながら私に謝罪をした。私は今の今の出来事の後に先生と目を合わせるのが気恥ずかしくて視線を落として口を開いた。

『せ、先生は悪くありませんよ。私が峰田くんのもぎもぎ付けたままだった事が原因ですから…。』
「ナイフを忘れてたのも、嫌なモン押し付けた事もこっちの落ち度だ。」
『わーーー!もう忘れましょう!!帰ります…!ご迷惑おかけしましたー!』

さっきまでの事を思い出すと恥ずかしくて死んでしまいそうだった。
私は逃げるように教師寮から出ていった。

事故であってもあんな事になっちゃうなんて…。
私は暫くの間、眠れない夜を過ごす事となった。

−−−−
−−

_「あの時はやばかった…。教員免許剥奪モノになる所だった。」

先生と二人のベッドで、抱き合いながらこの日の事を笑い合うのはまた3年後のお話…。

fin..

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