不変の誓い


爆豪side

あるテレビ番組に出演した時のことだ。
"ヒーロータイムズ"とか言う番組だ。プロヒーローとしてゲスト出演の依頼を受け、今俺はそのスタジオにいる。

「プロとして活動する上で、大切にしていることはありますか?」

司会のやつがそんな質問を俺にする。
なんてありきたりな問いかけだ。くだらねぇこと聞いてんなやクソ司会が。

「絶対ェ勝つ。」
「そ、そうですよね…。」

司会の奴の(質問を間違えた…)という心の声が聞こえてきそうだ。かなり焦ってやがる。
司会慣れしてねんかよ。コイツ。
この番組は今日から放送開始の番組だ。その初っ端のゲストに俺が呼ばれたって訳だ。…正直、出る気なんざなかった。こんな「ヒーローがなんたるや」を語る番組なんざ興味がねぇ。しかし、この番組のプロデューサーから俺が出りゃ「高視聴率間違いなし!」という言葉に心は揺れ動いて出演を決めた。
世のモブ共に一斉に言える場が欲しかった。
どうしても知らしめたい事があった。

「…ずっとそうだった。けど、今はそれだけじゃねぇ。」
「と、言いますと?」
「…自分が守れるモンを守りてェ。」
「守る?」
「ヒーローは、神様じゃねぇ。身一つで出来ることには限度がある。だから、目の前の救えるモンだけでも全部、何がなんでも俺が助けるつもりでいンだよ。」
「お、おぉ!沢山の人々を救ってきたヒーローの言葉にはやはり重みを感じますね。」
「重み、か…。…オイ、今この番組見てる奴ら、耳の穴かっぽじってよーく聞いとけや。」
「え、あの……?」

司会者が狼狽えるのも無視して、机に置かれているスタンドマイクを手に持って、ランプの光っているカメラに目線を向けて話す。

「俺には、大事な奴がいる。ソイツと結婚することにした。…守りてェモンがある人間がどんだけ強くなれんのかテメェらに見せてやる。」

それだけ言って椅子から立ち上がり、スタジオを出た。

「え!?結婚?え!?」

背後でそんな声が聞こえる。
まだ世間に発表していない事実。スタジオ内が騒つくのも当然だろう。
後ろで俺のヒーロー名を呼ぶスタッフの声が聞こえるが、構う必要もねぇ。
さっき言った言葉があの場に相応しくない事は解っちゃいる。明らかに"プロヒーロー"としてではなく"爆豪勝己"としてのセリフだった。
しかし今日の生放送は「こっから自分を変えてみせる。」そう世間に知らしめる絶好のチャンスだと思った。

俺の事を嫌う人間は山といるだろう。別に好きになってくれなんて思っちゃいねェ。
ただ、俺の発言なんかで、守りたい奴が周りから後ろ指刺されて傷つくなんて事は絶対にしたくねぇ…。

…誰かの為に自分を変えようなんざ、今までに思ったことがあるかよ。でも、そう思っちまう程に俺はアイツが大事だ。

「クソ…ンとに、敵わねェな。」

フッと笑い混じりにそんな言葉が漏れた。

−−−−

業務が終わって家に帰る。
カチャリと玄関のドアを開けると、奥の部屋からバタバタと激しい音が聞こえ、小走りで俺の前に来る女。

『ちょっと!今日のなに!?』
「あ゛?」
『生放送であんなこと言うなんて…。ビックリしたんだから!』
「何をそんなに驚いてンだよテメェは。」
『…も〜!心の準備ってもんがね……』

真っ赤になった顔を手で覆いながらウダウダと言う目の前の女を俺の腕の中に閉じ込めた。『かつ…き?』と不安そうに俺の名を呼ぶコイツを身体から離して、触れるだけの口付けを唇に落とす。顔を見ると、呑気なもんで首を傾げてやがる。

「俺がテメェをこれ以上ないくらい幸せにしてやっから覚悟しとけや。」
『っ……』
「何照れとんだ。いっつもみたくに馬鹿みてェに笑えや。」
『こんな真面目に言われて、照れない方がおかしいでしょ…。』
「…ケッ」
『…ふふ。でも、ありがとう。…わたしも貴方を幸せにします。』
「…真似してンじゃねーよバァカ。」

そう言うと腕の中のコイツは、ふわっとした笑顔を俺に向ける。
…俺はコイツのこの表情が1番好きだ。
テメェはそうやって、ずっと笑ってりゃいい。
…俺の隣で。いつまでも。

fin..

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