何度でも貴方に恋をする


(諸事情により、次女ちゃんまだ生まれてない時の設定)
爆豪 side

朝、目を開けるといつも通りなまえと沙耶が眠っているのが視界に入った。
沙耶の柔らかい髪の毛を指で梳いてやれば、ゴロンと寝返りを打って俺にピタリと身体をくっつけてきやがる。俺と同じ色をした髪の毛はカーテンの隙間から漏れた朝日に照らされて、自分のものよりも幾分か綺麗に映る。長いまつ毛、小せぇ口や鼻なんかの顔のパーツは紛れもなく愛しい奴のモノだ。

あ?

沙耶のツラとその向こう側に眠るなまえのツラを見比べてる時だ。俺は妙な違和感を感じた。寝起きのぼんやりとした頭をフルに働かせなまえに感じた違和感が何かを探した。…そして気づいた。なんとなく顔が違ぇ。なまえである事には違いねぇが、何故だかそのツラに懐かしさが込み上げてくる。

『ん……。』

目を開け身体を起き上がらせたなまえは自分の身に纏っていた黒いTシャツを指で摘んで嬉しそうに微笑んだ。目の開いたコイツの顔を見て、やっとはっきりと分かった。コイツのこの顔は少し前に戻ってやがった。たぶん、高校生くらいの時のツラだ。
その少しばかり幼さの残る顔に見惚れていればなまえは辺りを見渡し『あれ、ここはどこ?』と言葉を発した。そして、寝そべったままの俺と目が合えばなまえは両手で口元を覆い、顔を真っ赤に染め上げた。そのまま俺と距離を取ろうとしたのか少しずつ後ろに身体をずらすが、なまえが寝ていたのはベッドの端、想像通りドスン_と音を立ててフローリングへと落下した。
その音ですっかり自分の目は覚め、やれやれと身体を起こしてベッドの反対側へと周り、なまえの姿を目にして言葉を失った。フローリングに尻餅をつき『いたたたた…』と言うなまえはその華奢な身体には余るほどの黒のTシャツ一枚だけをワンピースのように着た状態だった。V字の切り込みから見える肌色の面積が大きい。
…このTシャツ、俺が昔着てたやつに似てやがんな…。
そんな感想を心の中で言っているとなまえは服の裾を掴み服が伸びちまうんじゃねぇかって程引っ張り、露わになっている足を隠しながら口を開いた。

『あなた、勝己…?そうだとして、いくつ?…ですか?それにここは…。』
「あ?何寝ぼけてやがんだテメェ。」
『その口調…やっぱり…。』
「あ?」
『あの、実はですね。わたしは16歳のみょうじなまえです。昨日インターン中にかかった個性事故で、貴方で言う"現在"と"過去"のわたしが入れ替わってます。わたしにとってはここが未来です。』
「…つまり何か?16の俺の隣に現在のアイツがいるってか?」
『そ、そいうこと!…です。』

大体の状況は理解した。話し込んでいると沙耶が身体を起こし、はっきりとしねぇ口調で「パパとママ、もうおきたの?」と目を擦りながら此方を見てきていた。

それを聞いた高校生なまえは沙耶を見て、再び両手で口元を覆った。

『パパとママって…わたしたちの事?』
「チッ…他に誰がいんだよ。」
『えぇぇ///わたし勝己と結婚して子供いるの…?』
「そーだわ。オラ、わぁったら早よ下履けや。今までヤッてましたみてぇな格好して現れやがって。ガキの教育に悪ィンだよ。」
『えっちの後のわたしに一枚だけ着せたのは16歳のアナタなのに……。』
「なんか言ったかゴラァ…!」
『…ナンデモナイデス。』

−−−−

なまえ side

「おねーちゃんはパパのことがすきなの?」

服を借りて(未来のわたしのものらしいが…)ソファに腰掛けていると、目の前に立つ小さな女の子が首を傾げてわたしにそう尋ねてきた。
この子の名前はたしか沙耶ちゃんといっていた。一応わたしの娘らしいが…16歳のわたしの中には産んだ記憶も、お世話をした記憶もない子だ。いきなり母になれと言われても無理があった。…正直、子供とどう接していいかもよく分からない。そのため、未来勝己はわたしを未来のわたしの親戚という事にして沙耶ちゃんに教えた。未来勝己はわたしに「今日限りの関係なら、無理せず親になろうとしてンじゃねぇ、客人にでもなってろや」とも言った。そんな成り行きがあって、沙耶ちゃんはわたしを「お姉ちゃん」と呼ぶのだ。

沙耶ちゃんの問いかけに、ニコリと笑って『うん、好きだよ。沙耶ちゃんはパパのこと好き?』と返した。同じように質問を返したのは、ほんの興味本位だった。あのプライドが高く攻撃的で暴言自信家の爆豪勝己が先ほどからこの子に「パパ、パパ」と懐かれているのがとても気になった。こっちに来て早々に勝己の口から教育云々言われたのにも驚かされた。
わたしの質問に沙耶ちゃんはにんまりと笑って口を開いた。

「うん!沙耶もパパのことだぁいすき!沙耶のママもパパのことだいすきなんだよ!」
『パパのどんなところが好きなの?』
「んーとねぇ、かっこよくて、つよいところ!あとやさしくて、沙耶にちゅーしてくれるところ!」
『へ、へぇ…?』

娘にちゅー?勝己が?全然想像がつかない…!
わたしが反応に困っていると、勝己がわたしの目の前に立つ沙耶ちゃんを後ろから抱え上げ「余計なこと言ってンじゃねぇ…!」と少し強めに言った。
…目の前にいるのは本当に爆豪勝己だろうか?娘に「えへへ」と笑顔を向けられ「ケッ…」とだけ声を漏らすだけの光景はあまりにも受け入れ難い。わたしのよく知る勝己なら「何笑ってやがんだ!」とか怒鳴り散らしそうなものを…。

「あ!パパおろして!沙耶きょうは、おばぁちゃんちにいくやくそくしてた!じゅんびしてくるー!」

沙耶ちゃんのその言葉で勝己は抱えていた沙耶ちゃんを床に下ろした。足を床につけた途端に少女はリビングを出て行ってしまった。

なかなかおてんばな子…?

そんなことを思っていると、わたしが座っている隣に勝己が腰を落とした。わたしは、なんとなく少しだけ距離を取ってしまった。
勝己とは16歳の時代でも付き合っている。そして隣にいるのはその人が旦那になっただけ。そう分かっていても、隣にいる未来勝己は、わたしの知っている勝己とは違って別人のように感じてしまうのだ。
勝己はテレビのリモコンを操作していろんなチャンネルに切り替えていた。その横顔をジッと見つめていると「ンだよ。」と顔の向きは変えず、赤い瞳だけを此方に向けてきた。

『あ、いえ。勝己だけど勝己じゃないような気がして…。大人になると変わるなぁって思って。』
「…誰の所為だかな。」
『え?どういう意味ですか?』
「さぁな。てかその敬語やめろや、気色悪ィ。」
『…その口の悪さはやっぱり勝己だ。…未来勝己は娘にはちゅーしちゃう程甘々なんだぁ?』

揶揄うつもりでわたしはそう言った。勝己は絶対「るせぇわ!!」って怒鳴ると思ったのに、テレビのチャンネルを切り替えながら気怠げに「言っとくが、俺はテメェに付き合ってやってるだけだからな。」と言った。その言葉の意味がわからず、首を傾げていると未来勝己は続けた。

「正確には、"未来の"なまえに、か?…テメェが【約束のちゅー】なんてくっだらねぇルール作りやがったから、付き合ってやってるだけだわ。」
『へ、へぇー…。くだらないと思うならしなくてもいいんじゃ?』
「…くだらねぇし、馬鹿馬鹿しいわアホ。頬へのキスと約束を破らねぇこととなんの因果関係があんだよ。」
『"過去"のわたしに言われても…。"未来"のわたしに言ってよ…。』
「言えねぇから"過去"のテメェに言っとンだアホ。」
『…そんなにアホじゃないよ?』
「…それでも。」
『?』
「そんなくだらねぇ決まり事で沙耶が笑って、それ見てテメェが馬鹿みてェに嬉しそうなツラすんならやったるわ。…"過去"の住民であるテメェにとってはぎこちねぇ空間かもしんねぇけど、アイツにとって家族っつうこの場所は…たぶん1番大切なモンだ。アイツが大切にしてるモンを俺が壊したかねぇだけだ。」

勝己の言葉に心臓は大きく跳ねた。"未来の"わたしに対して言った言葉だって事くらいわかってる。それなのに、どうしようもなくドキドキした。一途にずっとわたしを愛してくれている事に妙に感動してしまった。

『"未来の"わたしは、貴方の隣で心から笑えてるんだろうね?』

そう言うと、勝己は気怠げな表情は一切崩さず、しかもテレビからも視線を逸らさず返答した。

「ンなモン俺が知るか。知りたけりゃ個性事故なんかでこっちに来ずに、自分の足で歩いてココまできて、テメェで確かめろや。」
『…うん、そうだね。』

その言葉で知りたくなった。勝己と毎日を過ごす"未来の"わたしがどれほど幸せなのか。

未来の自分と入れ替わって確信した事がある。
_わたしはきっと何度でも貴方を好きになるんだろう。


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(続き書きます。えっち回はちゃんとトレードしてる夢主ちゃん戻す予定ですのでご安心ください…。)

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