コトバの形


(夢主さんお誕生日のお話。)

爆豪side

朝起きてまだ誰もいないキッチンへと立つ。
アイツとガキ共はまだ寝てやがった。起こさねぇようにしてきたのは、さっさと起きて朝メシの準備をしてやろうと思ったからだ。
今日はアイツの誕生日だ。
とことん何もさせねぇ日にしてやろうと思って、事務所のサイドキック達には「ロクでもねェ事で呼び出しやがったらぶっ殺すぞ」と昨日のうちに脅しておいた。
…こんな日にヴィランなんかが暴れやがって、呼び出されたりなんかしたら半殺しにしちまいそうだ。

朝飯を作っている最中にリビングのドアが開いてアイツが次女を抱えて『どうしたの?早いね?』と言いながら入ってくる。
抱えていた娘を座らせて、こっちを手伝おうとキッチンに来るのが見えて、「テメェは座ってろや。」と止めるが、首を傾げながら俺に近づいてくる。

『どうしたの?』
「…いいから座ってろや。」
『……キッチンはわたしのテリトリーです。』
「あ゛?意味わかんねェこと言ってんな。」

そんな会話をしていると再びリビングの扉が開いて、今度は長女が目を擦りながら入ってくる。俺にムスッとした顔を向けていた筈の顔を瞬時に笑顔に変えて娘に駆け寄り、朝の挨拶を交わしてやがる。

「ママ、おはよ…。あ…おたんじょーび、おめでとう…」

その言葉に(忘れてた)とでも言いたげな顔をした後、俺の方を見てくる。

「…ケッ、そーゆうこった。」

俺がそう言うと、長女に視線を戻して『ありがとう。』と言って抱きしめる。そして、頬に口づけを落としたあと、俺のいるキッチンに再び来て『パパもありがとう。』と、微笑んだ。
…えらく腑抜けた顔しやがって…。

−−−−

朝食を済ませ長女を幼稚園へと送り出して、リビングに戻る。
朝メシの片付けも終わり、リビングでおもちゃで遊ぶ次女を2人してソファに腰掛けて見守る。

「…欲しいモン、ねぇンかよ。」
『誕生日プレゼント?…そうだなぁ、毎年くれる、お花とケーキがいい!』
「他のだわ。なんか一つくれぇあんだろ。」
『うーん…特になんだよなぁ…。あ、じゃあ勝己が普段言わない甘い台詞をもらうかな?』
「あ゛?真面目に答えろや。」
『ふふ、だって欲しいものってよくわかんないんだもん。そうだな……』
「…」

コイツの言うように、誕生日には毎年ケーキと花を渡す。何も望まないコイツに何か少しでも"特別な日"だと思えるものをやりたかったからだ。
この日くれぇしか花なんて買わねぇしな…。

人の誕生日に何かをしてやりたいなんて、コイツに出会ってから思い始めたことだ。
大切な奴が大事にする"誕生日"ってのを俺が蔑ろに出来るはずもなかった。

ソファに座ったままコイツを腕の中に閉じ込める。

出会えてよかった、だとか
いつもありがとう、だとか
これからもよろしく頼む、だとか
伝えたい言葉は山とあった。
だが、どれもありきたりで、自分が口にするにはむず痒い台詞ばかり。言葉選びをしてる自分がなんともダサく思えて思わず「…クソッ」と声が漏れちまう。

『勝己?』
「…一回しか言わねェからな。」
『うん?』
「俺の人生が…馬鹿が付くぐれぇに幸せだって思えて、幸せボケまでしそうなのはテメェの所為だわ。…生まれて来てくれて、ありがと、な…。」

やっぱりありきたりな言葉しか出やしねぇ。
それでもこんなに馬鹿正直に思いを口に出したのは初めてで、やっぱりむず痒くなっちまう。
ンで、コイツは黙ったままだ。
…なんか反応しろや!!

そう言ってやろうと思って体を離して口を開いたが、俺の開いた口からその言葉が出ることは無く、代わりに別の言葉が漏れた。

「…なに、泣いとンだ。」

涙を流していた。
その泣き顔があまりにも綺麗で、無意識に頬に手を伸ばして口付けを落とした。
触れるだけの口付けをして目を開ければ、目の前のコイツは今度はふわりと笑う。

『勝己が心の中で思ってることを自分から言葉で伝えてくれること、あんまりないからなんか感動しちゃって…』
「…もう言わねェからな。」
『録音しておくんだったなぁ…』
「るせぇわ…」
『…わたしも、勝己と一緒にいれて、子どもたちもいて幸せだよ。』

俺に優しく笑いかけるコイツに釣られて俺の頬も緩んじまう。

こんなにも愛してくれて、
愛させてくれて
ありがとう。

fin..

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