同棲中:ホークスと迎える朝


なまえ side

チュンチュン_

小鳥のさえずりで目を開ける。視界をいっぱいにするのは黒い布とヒトの鎖骨だ。
あぁ、男の人の鎖骨って色っぽいなぁ…。
そんな事を思いながら再び目を閉じて、息を吸い込めば私の大好きな香りがする。同じ柔軟剤を使ってる筈なのに、自分が着ている服とは違う香りな気がするから不思議だ。好きな人の匂いと好きな香りが混ざるととてつもない相乗効果を発揮する気がする。

「えーっと…、そんなにいい匂いなの?」

頭の上からそんな声が聞こえてハッとした。

目を開け、ゆっくりと見上げれば、ホークス…いや鷹見啓悟はニコリと笑って私を見ていた。
私は自分のしていたことに恥ずかしくなり、再び彼の胸に顔を埋めた。

『いつから起きてたの…。』
「んーと、キミが起きる10分前くらいー?」
『時間大丈夫?今日はお仕事あるんでしょう?』
「全然大丈夫。」
『てか起こしてよ。話し相手もいない上に、私を腕に乗せてたら身動きも取れなくて退屈な10分だったでしょ。』

彼は私を腕枕にした状態で寝ていた。私はとても幸せな気持ちで朝を迎えるけど、彼にとってはしんどいだけではないだろうか?私の枕となっている逞しい腕を労る為、身体を動かそうと試みた。しかし彼は枕になっていない方の腕で私の頭を撫でてくるものだから、私は自分の動きを止めた。

「いやいや、退屈なんて事はないよー?気持ちよさそうに寝てるキミの顔はいくら見てても飽きないから。」
『茶化してるの?』
「可愛いってこと。」
『はいはい。』
「あれ?本気で言ってるのに。なんでいつも可愛いって言ったら流しちゃうの?」
『…"ヒナドリチャン"達にも同じ事言ってそうだから…ファンの子と一緒な気がして…なんか嫌。』

絶っ対笑われる。絶っ対いまニマニマしてる。啓悟の行動なんかお見通しだ。
素直に言ったのが恥ずかしくて、私は彼の服をぎゅっと掴んだ。

すると、私の頭を優しく撫でてくれていた筈の彼の手に力が込められ強く引き寄せられる。突然のことに驚いて顔を上げようにもあまりの力の強さに頭の位置はしっかりと固定され動かせなかった。私がもがいていると、啓悟は耳元で囁いてきた。

「一緒じゃないよ。なまえは俺の特別な女の子。」

その言葉と、脳を溶けさせるような声の所為で、自分の顔に熱が溜まっていくのがわかる。

『…ばか。』と言ったのにその罵倒の言葉には、不釣り合いなくらい覇気が無かった。

私が体の力を抜けば、彼は自分から私の体を剥がした。そして私の顎を掴んで上に向かせたかと思いきや、唇を合わせた。

合わせた唇から伝わってくる彼の体温も、
胸に置いた手から伝ってくる彼の鼓動の速さも、
彼の全てが愛しくて心地良かった。

唇が離されれば、今度は私から彼を求めてしまって唇を合わせた。
このまま私を奪ってくれとさえ思ったのに、彼は私の身体を押し返した。

「"速すぎる男"でも、好きな女の子の事はじっくり時間かけて愛でたいから続きは夜ね。このままキミを甘やかしちゃうと朝の用事に遅刻しかねない。」
『用事?』
「そ。お偉いさんに呼ばれててねー。さすがに遅刻は不味いっしょ。」
『…見た目チャラいのにちゃんと真面目だよね。』
「いやいや、これでも立派な社会人ですからね。」

啓悟はいつものように調子の良い事をヘラヘラと笑いながら言って、私の枕となっていた腕をそっと抜いた。そして私の額にキスをして優しく微笑んでくれた。

「欲しいモノは我慢しない性分の俺が、こうやって我慢した分、夜は覚悟しといてー。」
『なっ…!』
「じゃ!」

さすが速すぎる男、ホークス。言いたいことだけ言って寝室から出て行ってしまった。

「特別な女の子」…。その言葉を思い出すだけで嬉しくて表情が緩みそうになってしまう。

夜も、また言ってくれるかな……。
そしたら次こそはちゃんと『私にとっても貴方は特別』だと言ってあげたい。

そんな事を思いながら私は再び夢の世界へと落ちていった。

fin..



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